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zoom RSS 異国迷路のクロワーゼ 第5話「迷子」

<<   作成日時 : 2011/08/02 21:00   >>

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迷子の様子も怖かったけれど、浮浪児が描かれると胸が騒ぎます。



以前からちらほら顔だけ見せていた少年が、はじめて湯音とまともに接触した今回。お客様の満足を第一に考える日本流の営業スタイルや、本音はどうあれまず挨拶ありきで人間関係がスタートする日本的発想が、ある意味で冷酷ともとれる個人主義を発展させた近代欧州の考え方にぶつかって、はじめて湯音がこの国を「怖い」というネガティブな印象で見つめることになったエピソードでもあった。


日本にも浮浪児くらいいただろうに、警戒心が無いってのは湯音は本当にお嬢様育ちだったのかしら。それとも長崎には浮浪児がいなかったのか? いや、さすがに当時の日本にだって、フランスと同様かそれ以上に厳しい格差はあったはずだし、悪人だっていたはずだ。それを湯音が知らなかったのは、単に年齢や育った環境の問題だろう。かりに湯音が日本で大人になっていくなら、日本式のやり方で世間の怖さや危険性を教えられることになっただろうし、いずれ嫌でも思い知らされることになったのではないか。それなりの名家の娘であれば当然、近い将来は親の決めた縁談を受けて結婚させられることになったと思われるが、激動の時代を迎えていた日本で、いつまでも小さな幸福な世界のお姫様でいられるワケがない。湯音の親がどういう想いで彼女を異国に旅立たせたのかは分からないが、まだ何も知らない純真無垢なまま放り出したのは、旧来の日本とは違う視点から、この世界の良いところも悪いところも学んできて欲しいという期待や願望の表れだったのかもしれない。


そうして送り出された湯音は、いままではどうしても、パリの良いところばかりを見続けていたし、そう仕向けられていた部分があった。まぁこんな純粋な少女を見たら、オスカーもクロードも、パリの暗部を教えるのはなかなか気持ちの整理がつかないのは分かるw 今回はそういう意味で、彼らが友人として家族としてより親密になるための良いきっかけとなったし、また湯音にとっても、このパリという街の一員として生きていく覚悟を定めるための重要な経験となったのだろう。


よく長期の海外渡航について言われる話で、はじめは渡航先の国が面白くて仕方がなかったが、ある時から急に悪い点ばかりが目について心底嫌いになり、さらにそんな期間を過ぎて良くも悪くも関心が無くなっていってはじめて、その国に溶け込むことができるようになるのだと言う。自分は2か月以上も長く外国にとどまったことは無いので、海外に行くたびに面白がって帰ってくるのだが、湯音はそろそろ、留学の第2段階に差し掛かりつつあるのかもしれない。また現代でも、若い日本人女性を中心に「パリ症候群」なる病気?もあるらしい。”華の都”というイメージと現実とのギャップに加え、アニメでも描かれたパリ人特有の気質が、想像以上に負担となってしまうのだろう。


しかしそんなパリの人々のことを、作品独自の視点から愛を持って語って見せた今回。いままで自分は今作を、馴染みのあるフランスと馴染みのない日本、という対比で見てきたけれど、今回ばかりは、パリの街を(負の側面も含めて)見知らぬ異国の地として描き出した。頼れるもののほとんどいない湯音の立場の危うさや不安感にぐっと共感させると同時に、改めてさまざまな立場や視点から異文化理解と心の交流を描写しようという意識の表れとして、とても感慨深いエピソードだったのではないだろうか。


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ところで今回は、警戒心の薄い湯音の目の前で、浮浪児がクロードの店から燭台をかっぱらっていった。公式サイトやEDのスタッフロールでも名前が明かされていない彼は、今後、湯音たちとどのように関わっていくのだろうか。盗みを働くのは良くないことだが、道徳や法律で簡単に結論を下せない事情を抱えている彼をどのように扱っていくかが、19世紀パリという場を描く上で重要なファクターとなってくるかもしれない。


浮浪児と言えば。やはり19世紀のパリを舞台にしたユゴーの傑作『レ・ミゼラブル』では、主人公たるジャン・ヴァルジャンやマリユスらの活躍以上に鮮烈な印象を持って描かれていたのが、浮浪児だった。この古典小説と『クロワーゼ』ではなお数十年の開きがあるけれど、それでも往時のパリを描くうえで、こうした社会の負の側面を背負った不幸な子供たちを登場させるのは、絢爛たるフランス上流階級を描写するのと同じだけの意義がある。


じつは自分は、高校生のころの部活動でストリートチルドレンの問題を少し勉強していたことがあって、主にバングラデシュでの活動を行うあるNGO団体の方々にお世話になりながら学んだり、あるいは海外旅行での個人的な経験もあって、少なくない関心を持っていた。『レ・ミゼラブル』を読んで強い感銘を受けたのもこのころだ。当時でさえ、バングラデシュの首都・ダッカには、少なくとも数千人、統計によっては数万から十数万ともされる数のストリートチルドレンが生活していたと聞く。もちろんそれは世界中で問題になっていることで、人間社会のいびつさが生み出した不幸な事例のひとつとして、たびたび紹介されている。本来ならだれよりも幸福を享受しなければならないはずの子どもたちが、飢えに苦しみ、危険に曝され、心をすり減らしながら、誰にも頼ったりすがったりすることも出来ないまま、むしろ大人たちの搾取の対象にさえされながら、一日一日を必死に生きている。そんな子どもたちが不幸で悲惨な境遇を脱することができる可能性は、極めて低い。


それでも驚嘆すべきは、そうした子どもたちのしたたかさだ。国や街にもよるのだろうが、不幸のどん底としか言いようがない環境で暮らしながら、それでも少なくない数の子どもたちが、日々の暮らしの中にささやかな楽しみをみつけたり、大人顔負けの狡猾さで世間の荒波(日本の世間など比べようもないほど厳しい海の中だ!)を泳いでいる。「将来の夢は?」と聞けばそんなものは無いと言わざるを得ない彼らですら、「好きな遊びは?」と聞けば元気よく「サッカー!」と答えて、笑顔を作る。ほんのちょっとした病気が致命的となるような不安だらけの人生のはずなのに、どこか彼らの瞳は、輝きを失わない。そんな子どもたちを見れば、先進国の中流家庭でのうのうと暮らしている自分の悩みなんか、馬鹿みたいにくだらないものに思えてくる。

(※ただし、これは本当に人によるだろう。まるで生気の無い、本当に打ちひしがれた表情を見せる子も多い。そんな顔を、まだ生まれてから5〜6年しか経っていないような子どもの中に見出すのは、本当に胸が締め付けられる)


『レ・ミゼラブル』において、作家が生き生きとした筆致で描き出した子どもたち(その代表としてのガヴローシュ)もまた、決して絶望などしておらず、むしろ自分がこの世界の王様でもあるかのようにしてたくましく生きている、そんな浮浪児たちだった。自分たちを見向きもしない幸せそうな親子が投げ捨てた一切れのパンをかき集め、夜は人食いネズミの巣のすぐ近くに眠り、悪党どもと付き合い、世間であくせく暮らす人々を小馬鹿にしたような鼻歌を歌いながら、ずぶとく生きていく。『レ・ミゼラブル』とは”哀れな人々”という意味だが、ユゴーは善人も悪人も金持ちも貧乏人もすべて、愛すべき、たくましく輝きに満ちた人間たちとして描き出していく。浮浪児ガヴローシュの姿には、どんな境遇にも決して負けない力強い人間の魂が生き生きと映し出されているし、またそれによって、本来その価値に差などあるはずがない人々が不平等な社会システムの中に押し込められている歪さを告発しているとも言える。




関係ない作品のことを長々と書いてしまった。だが『クロワーゼ』においても、浮浪児がただ悲惨な状況に打ちひしがれる憐れむべき存在だと描かれているわけではないのが、今回のわずかの描写の中にも読み取れるだろう。少年が盗みを働いたことは、湯音の”甘さ”を浮き彫りにする事件ではあったけれど、その犯罪が必ず罰せられるべき所業として扱われていたわけではなかった。おそらくクロードもよく分かっていたように、少年はただひと切れのパンのために、一日に一度味わえるかどうかの食事のために、盗んだのだった。大胆不敵な彼の行動には(表面上は)罪悪感のようなものはあまり読み取れず、こうした生活がすっかり彼の日常となっているのが分かる。


いかにも危険と隣り合わせの、緊張を解く暇もない毎日のなかで、それでも決してあきらめずに自分の足で歩いてゆこうとする少年。まだ10歳にもならないであろう彼の生き様を、湯音はどのように見つめ、考えて、関わってゆくのだろうか。もしまたこの少年が湯音たちの物語に大きく関係してくるのであれば、今作がこうした”哀れな人々”をどのように取り扱っていくのか、注目しておこう。




なお、蛇足を付け加えておくならば、実際にストリートチルドレン(あるいはもっと悲惨な境遇におかれた子どもたち)を前にすると、小説や映像の中で接するようにはとてもいかない。自分などは、ある国でとつぜん子どもが物乞いをしてきたのを前にした際、同情とか愛とか瞳の輝きとかそんな単語が頭から一度に抜け落ちて、ただただ「怖い」「早くこの場を離れたい」と願って、震えながら逃げ出すしかなかった。無関心を装うことができるならそれに越したことはなく、執拗に付きまとわれたらもう泣き出すか、逆に殴りつけてでもどこかへ追いやってしまいたいなどと、そんな感情さえ湧き出してくる。こういう時に、人の本性が出る。いまだに自分は、浅はかさ、甘さ、非情さや愚かさをまざまざと痛感させられたあの時の自分自身を、克服することができないでいる。


小説やアニメがどんなに惨めな境遇の人々の魂を照らし出そうとしたところで、そんなのは所詮フィクションだ。綺麗ごとだ。きっと真実は、本当の意味で他者と向き合うことができた人のみが知っている。その覚悟を持てずに尻尾を巻いて逃げ出すしかなかった自分の弱さをよくよく噛み締めながら、今作が何をどのように描き訴えてくれるのか、受け止めたい。



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それでは、今回は以上です。


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