Ａｎｇｅｌ Ｂｅａｔｓ！ 第６話「Family Affair」

真夜中に見るアニメじゃないよ、これは・・・。




・今回のお話　直井文人の目的と新説


今回のエピソードは、生徒会長代理として大々的に活動を始めた直井文人を中心に、なかなか凄惨な光景を繰り広げてくれた。それは見た目の凄惨さもさることながら、直井の目的とその手段こそ、目をそむけたくなるものがある。


この世界は、神を選ぶためのものである。そう公言した直井は、かなり以前から周到に計画を練っていた。ＳＳＳメンバーに目を付けられないよう模範的なＮＰＣを演じて見せながら、裏では一般生徒に暴力をふるい、対天使用の幽閉室を作り、抵抗しようとするＳＳＳメンバーの心が折れるほど手酷い仕打ちを加えた。挙句の果ては、催眠術を用いての強制成仏（※用法に要注意、下記第２節参照）。最後に音無が彼の心を解きほぐして見せなかったら、これほど陰鬱で正視に堪えないエピソードは、近年のアニメを通じてもなかなか無いものになっていただろう。とくに直井がゆりっぺを抱きかかえて催眠をかけようとしたシーンは、ヒロインの惨たらしくも扇情的過ぎる姿が、より一連のシーンの凄惨さを増大させている。あのまま直井の回想シーンに入らず、バッドエンド的に終わらせられたら、本気で焦りと混乱で大変なことになっていたと思うｗ


逆にいえば、音無の捨て身の説得であっさり心折れてしまった直井のキャラクターの浅さは、物足りないと言えば物足りない。あれだけ酷いことをやった人間があっさりと折れるものか、という違和感もあるし、お前の覚悟はその程度だったんかい、とツッコミを入れたくなりもする。直井文人が今後どう描写されるか分からないが、現時点では、前回と今回（あるいは次回あたりまで？）のゲストキャラ的な位置づけという印象だ。もっと救いの無い心理描写を行った上で、直井が本当に満足して消えていく様が描かれたら、すごいカタルシスを生んだのではないかと思わせるだけのキャラクターだっただけに、少々もったいない。


むろん、全体のストーリー展開の整合性を考えた上でのこの展開だ。最終話まで見た上で判断しなければならないし、今回はこれはこれで、決して悪くないエピソードだった。なにより、ずっしりと腹の底に響くエピソードだったわけで、深い余韻を残す秀作だったと評することができよう。




・成仏という語の用法について


今回たぶんはじめて”成仏”という語が使われたが、この語が仏教の教義から大きく逸脱した、極めて世俗的な用法として用いられている点には、注目すべきだろう。この発言は恐らく脚本家ではなくキャラクターが、仏教のことをろくに知らないで発言したものであると、捉えておくのが良いと思う。


というのも、まず今回用いられた”成仏”という語が、まったく同じイメージで、岩沢が消失した際に視聴者側から言及されていたという点。これはすなわち、直井自身が、岩沢たちが消えた様子を、仏教を知らない視聴者たちと同じような安直さで「あぁ、満足して成仏したんだな」と判断したと考えられる。現時点では、生徒会長（という言い方はもうおかしいかｗ）も直井もゆりっぺたちも、みんな同じ立場から勝手に推測を立てているだけなわけで、だれが正解かは分からない、誰も正解ではない可能性が高いという段階。これはむろん、みんな分かってるとは思いますが。


改めてこんなことを言うのはなんでかと言うと、ここでも”成仏”という単語がミスリードに過ぎない可能性が非常に高いから、みんな重々気を付けて惑わされないようにしよう、という話。


はっきり言って、”成仏”という語がこんな安直な概念で語られることに、自分はけっこう腹立たしい想いがあって、もし麻枝准が素で成仏のなんたるかを知らずにこの単語を使っているのだとしたら、本気でガッカリだ。しかし、こうもあっさりと”成仏”の安易な用い方をしているということは、あの消失現象を脚本家が本気で成仏だと設定しているわけでは無い、と推測することが十分に可能である。




模範的な平穏な日々を送るか、さもなくば生前の強い想いをやり遂げたら消える。いまのところその設定は有効と見て良いだろうし、死後の世界をモチーフにしたこの作品にあっては非常に考えさせる設定である。ただそれを簡単に”成仏”と呼称するのは抵抗があるし、個人的感情からもそう定義付けたくはない。仏教等の既成宗教の用語や考え方を参考にするのは構わないが、宗教に敬意を払わないで用語だけ流用するのではなく、きちんと今作で描かれていることの本質を見据えるべきだと、思う。


岩沢がどうして消えたのか。あるいは、かなではどうして消えないのか。これを考えるときに、いわゆる”成仏”という語をいったん離れて、考えてみて欲しい。それが、作品に対する真摯な態度と言うものであろう。




・なぜ天使は消えないのか？


そろそろ気になってきた点。生徒会長（もとい、たちばなかなで）は、ずっと模範的な生活を送り、とくに不満や不服を抱えている描写は見受けられないのに、どうして消えないのか。これは、今後の本作を見る上でのキーポイントになるのは間違いない。


いままでも、彼女が音無たちと同じ人間らしいというのが明らかになるにつれ、疑問として湧き上がっていた部分ではあった。それが今回、音無と彼女の会話において、「協力してくれた人はみんな消えていく」という発言によって、にわかにクローズアップされたカタチとなったわけだ。またそれに、自分が麻婆豆腐が好きだという事実を指摘されて初めて気付いたという描写も、加えて考えることができそうだ。


ようは問題は、彼女にとっての”生きる”とは何か、という点になってくる。模範的で幸福な学生生活を送ることは、彼女にとって決して満足を与えてはくれなかった。生徒会長としての責務を全うすることも、テストで良い点を取って先生に褒められることも、すべてだ。かといってそれらがどうでも良いというわけでもなく、前回の落胆っぷりから察するに、優等生としての自分の姿も、知らずの内に相当、大切に考えていたのは事実らしい。


となると、これは少し安直な考え方だが、優等生として真っ当な（しかし無難な）学生生活を送ることは、彼女にとって幸福というよりも、義務であったということだろう。たとえば生前も、親とかに言われて優等生を演じ続け、それを演じることが自分の生き様だと思い込んでいた、とか。自分の意志や願いではなく、他者に定められた義務を自分自身だと思い込んでいる少女、それが彼女なのだろう。


そんな彼女が、音無という友人（の候補？）を得て、また生徒会長という役職からも解放されて、自分自身をどう見つめ直すのか。この世界の仕組みとか、ＳＳＳの活動とかと同じ、いやそれ以上に、注目すべきテーマになるだろう。




「人生賛歌」という題目を掲げ、今のところはその看板に違わず立派に”生きる”ことの意味を問おうとしている今作。音無やゆりや天使が、自分の生を見つめ立ち向かっていく姿を、楽しみにしたい。




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ところで、途中で流れる雑誌のＣＭで、ＡＢの紹介でちらっと見える こもわた絵（だよね？）のゆりっぺと天使が、たまらなく可愛いですｗ　本編登場しないかな・・・。無いかｗ


それでは、今回は以上です。




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Comments

[はるる]

＞宗教に敬意を払わないで用語だけ流用する

科学教唯物論派（※）の原理主義者としては耳が痛いですね。
どうしても自分の信仰以外はいいかげんに見てしまいます。敬意を払うべきだと思っていないわけではないのですが・・・

＞キャラクターが、仏教のことをろくに知らないで発言したもの
これは直井が「催眠術で成仏できる」としたことでしょうか。私の乏しい知識では「満足して成仏」という考え自体は仏教の教義から大きく逸脱したものとは、思えないのですが。
煩悩を絶つ＝迷いや無念などから解き放たれる＞悟り＞成仏
という図式ではダメでしょうか。
（もっとも岩沢の消滅は「満足して成仏」ではないと思っていますが）

（※）科学教唯物論派
自然科学で取り扱える、時間とか空間とかエネルギーとか質量とか、そういったモノだけで世界の全てを解釈すべきという、信念・信仰のこと。科学ではわからないことがあることは科学的に証明されているので、「わからないことはわからないと言うべき」という教義も存在するがめったに適用しない。昨日、私が作った造語です。

[おパゲーヌス]

＞はるるさん
そもそも、死んだらみんな成仏する（あるいはそれが理想である）とするのは、葬式仏教などと揶揄されるような、仏教教団の世俗化の中ででっちあげられた死後救済観念です。日本ではほぼ室町時代以降に始まり、江戸時代の檀家制度で完全に仏教が世俗化しましたが、そこでは釈尊や教団の祖師たちが言っていることとまるで違う死後観が偽作されたという歴史があります。

本来、煩悩を消滅させることと、迷いや無念を解消することは、似てるようで全然違う概念なのですよね。それに仮に正しく煩悩を断ちきったとしても、それは仏ではなく阿羅漢と呼ばれる、一歩低い境地に留まります。成仏というのは文字通り「仏に成る」という行為なわけで、ブッダと同じレベルの哲学的境地に立って初めて、仏になれるのであって、ただ悩みがなくなったり現世への未練が無くなったって、その魂が凡夫であることに変わりはありません。

今作で掲げている人生賛歌というものは、例えば幸福であるとか、生きがいであるとか、あくまで世俗的な意味での「人生」が問題にされていると思うので、それはそれで大変有意義なテーマ設定ではありますが、仏教で扱う問題とは大きく異なるものです。だから、この作品で語られる消失現象を、偽作され捻じ曲げられた仏教用語で説明することに、大きな憤りを感じるのです。


科学信仰を文字通り「信仰」と表現されたはるるさんのご意見は、まったくもってその通りだと思います。私とは信念を異にしていますが（笑）、現代人は科学信仰を信仰ではなく不変の真理だと思ってる側面があるので、はるるさんのような物言いは大変謙虚で、好感が持てます＾＾