神のみぞ知るセカイ 第７話「Shining Star」

大感動のエピソードだった。期待してたのとは違ったが、違ってて良かったのだと気付かされた。




・どう転ぶのか！？　かのん編におけるマルチエンディング方式


アイドルをヒロインに据えた物語で、そのヒロインが抱える悩みやその解決法というのは、だいたい類型化されており、想像の範囲を大きく越えるものは少ない。とくにこのエピソードは、もともと存在感の無さにトラウマを抱えていた少女が、たくさんの名も知らぬファンたちに取り囲まれて一時的に自信を付けていく物語であった。だから自分は当然、偶像として崇められることに価値など無く、たった一人から認められればそれでいいのだと、そう訴えかける展開になるのだろうと予想していた。


しかし実際はどうであったか。控え室で一人佇むかのんに、昔の自分が「失敗したら終わり」と語りかけてきた時点で、強烈な違和感を覚えた。彼女の悩みを描くのにそのような出発点から展開して、果たして妥当な決着点に辿りつけるのか？　ここは自身のパフォーマンスに対する不安やプレッシャーではなく、仲間を捨てて一時の栄光を追い求めてきた自分の所業を振り返って、疑問を感じたり、場合によっては罪悪感に苛まれたりする描写をやってこそ、桂馬の攻略が完了に向かうのではないのか。そう思って、今回の構成が早くも心配になって来たのが、Ａパート時点での偽らざる心境だった。


そんな自分の予測や期待が見当外れだったことに気付かされたのが、かのんを発見してからの桂馬の言説においてであった。この物語は、偶像となることを否定しているわけではなかった。ただ自分の弱さを克服しようと頑張る少女を、その背中を押して励ますというのが、基本的な構造であった。これを見た時に、正直ガックリきてしまった。


そもそも私個人がアイドルへの興味がこれっぽっちも無く、自分の才覚よりはむしろプロモーションの力に左右されるアイドルという職業を、あまり評価していない。アイドルになれたからと言って、そこにスポ根的ドラマティックさを感じないというのは、モー娘。やＡＫＢなどの、プロモーション力によってヒットしたアイドル像を見せられてきた年代だからかもしれない。そんな自分にとって今回の中川かのんの物語は、一時的な栄光のために小さなハードルをちょっと飛び越えてみせるだけの、底の浅いドラマに見えてしまった。個人的趣向としては、ぜひともアイドルの道を捨てると決断する勇気を、選んで欲しかったのだ。




しかしだ。これは期待と違っちゃったなぁと残念がっていた自分の浅はかさを、今作はいとも簡単に射抜いてしまった。桂馬やファンの声を聞いて一念発起したかのんが、不意打ちで桂馬にキスをしたシーンだ。


ここではキスの前に、まさに愛の告白であるかのような口調で、かのんは言った。「私、一人のためにずっと歌っても、良かったんだよ」と。そしてそっと口づけをしてから、寂しそうに、しかし決意に溢れた様子で「じゃあね・・・。」と別れを告げた。


これを見て、やられた！と思った。かのん編のクライマックスとも呼べるこのシーンにおいて、中川かのんというキャラクターは桂馬に対し、二通り目のトゥルーエンドの可能性を指し示したのだと、思ったからだ。


桂馬は、かのんがアイドルとして自信を付け、もう存在が消えることもなく本当に自分の力で輝けるスターへと成長を遂げることをもって、この物語のエンディングだと考えたわけだ。しかし同時に、私や、そして多くの視聴者が想定していたであろう、アイドルをやめて桂馬のためだけに歌い、笑い、共に歩むという選択肢。言わば恋人ルートとも呼べるもうひとつのエンディングが、並行して確かに存在していたのだ。


たまたま桂馬が（そして作り手が）アイドルルートエンドを提示したのが、今回の物語だった。そして、駆け魂狩りの任務を続行するという意味においては、作品としてはこちらを選択するのが正しかったんだと思う。しかし、運命の行き先はひとつではない。我々の想像力に委ねるカタチで、まったく別のエンディングまで同時に現出してみせた。そのパラレルワールドはセリフや映像では描かれることがなくとも、我々の心の中に、我々自身の手によって確かに描画されたのであった。


決して交わることの無い、並行する二つの攻略ルート。この双方に想いを馳せるとき、桂馬が選択しなかったルートがあったという事実に気付き、そして切り捨てられたルートこそを中川かのんは本当は望んでいたのではないかと推測することで、別れ際の彼女のセリフに万感の想いを感じ取ることになった。キスシーンの映像的な美しさにも大いに感じ入るところがあったが、それ以上に、彼女のたった二言のセリフによって計り知れない奥行きを物語の中に演出した、あまりにも鮮やかな作劇だったと思う。心底から感動させられた。見事だった。




・ライブ演出の見事さ


もうひとつ見事だと思ったのが、やはり今回はこれでもかとライブシーンを押していたが、その中で鮮やかさと暗さを巧みに使い分けて、ただ派手で可愛いだけではない、とても詩的な余韻を残す演出を行っていた点だ。


まずアバンはシトロンの三人のアカペラから導入されるわけだが、これがもう最高だった。いちおう歌そのものの魅力は、このアカペラではそこまで明らかには伝わってはこない。そもそも今作のアイドルソングは決して出来が良いとは思えず、曲そのものの求心力はそれほどではないと思っている。では何が良かったかと言えば、薄暗い中、間近に控えた大舞台を前にした緊張感と、決して怯んではいない三人の身震い、絆の強固さがよく伝わって来る、地味だけれども感慨深い一幕であったのがひとつ。しかもこれが、中川かのん一人ライブへの緊張感や、作品としてのひとつの終幕に近づいてゆく緊張感を巧みに引き出し、いよいよ大詰めを迎えたのだと視聴者に印象付け盛りたてる、最高の導入だった。もちろんこのシーンは、本編と合わさることで強い郷愁を掻き立てるのもポイントだ。


続いてライブ本会場の様子。かのんを呼ぶファンたちの声は、じつはちょっと怪しい宗教結社みたいで怖かったｗ　でも、映像の良さでかなり救われたと思った。会場の屋根がダイナミックに開いてゆき、その中から美麗な光線が漏れだし、熱心なファンたちの心からかのんを求める呼び声が何度も何度も繰り返される。ヒゲの人も含めて、コアなファンの姿を前回から生温かく描いてきたのが、ここにきて功を奏していた。


ライブ本番も見事だったなぁ。こちらもステージの装飾や光線演出などでしっかり派手に盛り上げつつ、堂に入ったかのんの振り付けや表情をフィーチャー。初っ端にしっとりとした名曲を持ってくるなんて心憎い構成だし、また桂馬に向かって語りかけるように、情感豊かに歌い上げるかのんの姿が心を打つ。２曲目から、いかにもアイドルらしいキャピキャピした振付やカメラワークで魅了するが、こちらも十分な尺を割いて、ライブの盛り上がりだけでなく、感慨にふける桂馬にもスポットを当てながらエンディングへ。映像も気合い十分に、まさにトゥルーエンドの幕引きに相応しいライブシーンだった。


そしてＥＤ後のＣパートでは、ふたたびシトロンのデビュー曲を、今度は一人でかのんが歌ってみせる。かつての仲間に想いを馳せながら、もう一人で歩いて行けるのだと、旧友に、そして自分自身に言い聞かせるような一人ステージ。きわめて静かに、しかしだからこそ大きな感動の尾を引きながら、中川かのん編の最後のワンシーンが上演される。なんて美しい幕引きだろう・・・！




・あまりにも完成されたエピソード


もう今回のエピソードは、ありとあらゆる要素が完璧だった。ストーリー展開は予想を大きく上回るものであったし、また個々のシーンを見ても非常に巧みに視聴者の心理を誘導しながら、かのんと桂馬の物語を美しすぎる演出で描きあげてみせた。ＢＧＭの使われ方も素晴らしく、とにかくＡパートから、音楽のチカラでぐいぐいと引っ張って行ったのが良かった。何より、当初はさほど惹かれなかった中川かのんというキャラクターを、いまではすっかり好きになっていたというのが一番の成果だと思う。


第５話・第６話を少し冗長な展開だなと感じていたのだが、この３０分間を完成させるための構成だったということで、大いに納得が行った。このエピソードを見ることができただけでも、「神のみぞ知るセカイ」をこれまで視聴し続けて良かったと思えるほどだ。いまの段階でこんななのだから、来週以降のエピソードではどんな面白い展開が待っているのか、今から楽しみで仕方なくなってくる。


それと今回は、ヒロインが自ら桂馬に別れの意志を告げたことが、記憶が無くなるという設定とかどうでも良くなるくらいに、今回のエピソードを完結させていた。これはすごく良かった。いつもなら一抹の寂しさやもったいなさを感じてしまうところだが、今回ばかりは寂しくはあっても、極めて前向きに、かのんの退場を受け入れることができる。そういう意味でもやはり完璧だったんだ、今回は。




さて、最高の流れで締めくくり、次のエピソードへバトンを渡した第７話。来週からは、いったいどのようなヒロインや物語が待ち受けているのだろうか。公式サイトにいる黒髪の文学少女が登場するのかしら？　なんにせよ、大いに楽しみにしておきたい。






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それでは、今回は以上です。



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