神のみぞ知るセカイ 第9話「大きな壁の中と外」&第10話「あたしの中の……」
同人誌原稿作成のためのあれやこれやで、更新が滞りがちになっていることを、お詫びさせてください。どうしても作業が深夜帯になってしまい、昨晩もアニメを見れずに徹夜で作業をしていたりするので・・・。今回は、栞編に突入した第9話&第10話をセットで書かせて頂きます。
・汐宮栞編 始動
さて、いよいよ汐宮栞の登場となった。公式サイトのキャラ紹介を見るに、彼女のエピソードがこのTVシリーズの最後を飾るのであろうか。
花澤香菜を擁しての文学少女と言っても、三つ編みの某キャラとはまたひと味もふた味も異なる、オリジナリティあふれるキャラクターだ。本に没頭しているときの、水の流れるように次から次へと紡ぎだされるモノローグや、詩的であるだけにいっそう狂信的な印象さえする活字への傾倒っぷり、そしてそれらとはまったく対照的な、現実世界への適応能力の壊滅的な低さやコミュニケーション不全。これらの要素は、文学少女というよりはむしろ紙使いに見られるキャラクター設定に近く、「R・O・D」を強く連想させる。「オタク趣味の暴走」とならんで、倉田脚本がもっともその本領を発揮できるジャンルが、活字賛美と言って良いだろう。自分の畑で勝負できる脚本家のノリノリな筆致が、実に見事だ。
加えて汐宮栞の個性がまた光る。一人で考え事をしているときのとても豊かな表情と、他者から見た時のボケーっとした無感動な表情のギャップが面白く、また少々天然のはいったトボけた性格設定が最高に可愛い。というかむしろ面白い。膨大なモノローグをこなす声優の魅力や、「……」と書かれた吹き出し演出もあって、アクションやストーリーに動きが少ない地味な展開であるはずなのに、非常に濃密な、見応えのあるエピソードとなっていた。
・桂馬は城攻めの天才!?
それにしても、第9話でその難攻不落っぷりを見せつけた汐宮栞に対して、桂馬の構築する戦略は素晴らしい。現実にこんな女の子がいたとして、いったいどうやってコミュニケートするのか、攻略どころかただの友達にすらなるのが難しいだろう。ましてや、3次元の女性に興味がなく、本にも興味が無い桂馬にとっては、苦行以外の何物でもない、かつてない強敵になるのではないかと思っていたのだが、彼の膨大なデータバンクと優秀な頭脳にかかれば、あっという間に攻略の糸口が見えてくる。
ちょうど今回、栞は図書館を「紙の砦」と称していた。その砦は外面的には図書館の本棚のカタチを取って彼女を取り囲んでいるが、内面的にもまた、栞は本の山によって堅固な要塞を築き上げている。その砦の城壁はあまりに高く厚いために、外からの無法な侵略者を寄せ付けない代わりに、自分も容易には外に出られなくなってしまう。栞は、他者と物理的手段(会話)によってしか通じ合えない人間の不便さを恨めしく思いながらも、安全な城壁の中に籠る心地よさにしがみついていると言えよう。
さて、城攻めというのは戦争において、洋の東西を問わず、古来もっとも厄介な場面であった。堅固に武装された要塞を攻略するのには、多大な労力と犠牲を覚悟しなければならない。そして、城攻めの際にもっとも有効な戦術とは、とにかく時間をかけることと、城の内部に内応者を見つけ出すこと、この二つである。
今回の桂馬は、まさにこの城攻めの鉄則に忠実に、コトを進めようとしていたと言える。他のどのヒロインについても同様に、とにかく出会う回数を増やすこと(=包囲の維持)、相手のデータを集めること(=地形や戦力の調査・偵察)、そしてどんなカタチであれ、相手の方から桂馬に興味を持ってもらうこと(=内応の準備)。このために、一時的に悪感情を持たれようとも構わない。桂馬自身が何度も言うように、好きと嫌いは表裏一体、自分に向かってその重たい門を開いてくれなければ何も始まらないのである。
このように、あくまでも城攻めの鉄則に従って攻略を進めている桂馬。彼の凄いところは、この基本となる戦術を、あらゆる状況や場面において、考え得る限りもっとも的確に応用してみせる点だ。これこそ、彼が持つ膨大な経験(ゲームだけどw)と、それを活用する知能の賜物であろう。落とし神の名は、伊達じゃない。
やはり恋愛ドラマというよりは、推理サスペンスとしての色合いが強い今作。だからこそ、こうやって丁寧に桂馬の戦略と戦術を描き出しているのが、最高に面白いわけだ。ここに描かれているドラマは、恋ではない、戦争だ。汐宮栞という城砦をいかにして攻略してみせるか、次回からの彼の手並みに要注目だ。
・この世界こそ、神のみぞ知る
自分の世界に完全に閉じこもる栞を見ていると、羨ましさのために思わず溜息をついてしまいそうになるのは、私だけだろうか。すでに人生を捨ててしまっているような彼女の性格はともかくとして、その心の中に広がる世界の、なんと美しく、豊かで、広大なことか。これほどまでに魅力的な内面世界を抱えている若者が、果たして今の日本にどれだけいるか。自分自身の貧相な内面と照らし合わせて、栞がその小さな胸の中に抱える財産の大きさに、圧倒される。
しかしだからこそ、彼女のそれは宝の持ち腐れだ。壊滅的に外向性が欠如している栞は、その宝を自身のちっぽけな快楽のためにしか活用できない。いったい何のための内面世界か。この世界を他者に見せることができたら、どんなにか素晴らしいことだろう。
そこで改めて、桂馬の存在の重要性に気付かされる。栞の抱え込んでいる世界は、いままでは彼女にしか歩くことのできなかった世界なのだが、いまや桂馬は、その世界への扉を開こうとしている。他の多くの友人知人たちが何度となく試み、諦めてきたその作業を、桂馬は少しづつ、しかし着実に成功へと導いている。彼が栞の心に巣食う駆け魂を追い出す頃には、栞の広大な内面世界は、栞だけのものではなくなっていることだろう。
まさにその地点こそ、「神のみぞ知る世界」だ。この作品は、誰にも踏みいれられることの無かったたくさんの世界を、桂馬がひとつひとつ開拓してゆく物語なのだ。それに気付いた時、この汐宮栞編のエピソードが、ひいては「神のみぞ知るセカイ」という物語そのものが目指している地平が、見えてきたように思う。
いまだに桂馬は、現実の恋愛に興味が無い。しかし彼はそれで良いのだろう。彼はあくまで神であって、彼によって拓かれ示されていくセカイを描くのが、この物語の主題なのだ。いちいち記憶が消去されるヒロインたちとの疑似恋愛ゲームは、男女の人生の交錯そのものを扱うことはないが、しかし少女たちの胸の中に眠る色とりどりの世界を、次々と披露してゆく。そこに、今作の主眼があるのではないだろうか。
そうして示された先に何を見せることになるのか、残りわずかの話数だが、だからこそ大切に、落とし神・桂木桂馬の足取りを見守って行きたい。
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それでは、今回は以上です。

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