ラストエグザイル―銀翼のファム― 第2話「Fool's mate」

早速の艦隊戦に、狭小な通路を駆け抜けるヴェスパ。第1話以上の圧巻の内容に、興奮がとまらない!



早くも王都決戦に突入した『銀翼のファム』。政治や戦略の駆け引きをもったいぶって描くのではなく、怒涛の速さで今回の決定的な局面に突入したのは、このドラマがアデス対トゥランの戦争を描こうと言うのではなく、国を失ったトゥランの民の困難な状況を踏まえながら、ミリアとファム達の交流と、「エグザイル」を軸としたこの世界の謎に迫る物語であることを訴えたかったのかもしれない。おそらくこの第2話において、本当の意味で、この物語はスタートラインについたと言えるのだろう。


ということで今回は、前回にも増してがっつりと、全編にわたって空戦を描き上げたエピソードだ。大規模な艦隊同士の激しい砲撃戦や、障害物だらけの狭い通路を高速でかっ飛ばしてゆくファムとジゼルの活躍など、前作の正統後継的な見せ場を、前作を遥かに上回る圧巻の表現力で魅せてくれた。ただ映像が美麗であるというだけでなく、おそらくは脚本面での発想も含めた、総合力としてのアニメーションとして、見事なアクションシーンに仕上がっていたと思う。なにより最高に楽しかった! もしかしたらこの先しばらくは、あまり大きな艦隊戦は行われないかもしれないので、その分しっかりと堪能しておきたいところだ。


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さて今回の決戦。両軍ともにあまり複雑な戦略を用いずにあっさり王都での直接対決に持ち込んだのは、ルスキニア総統の言っていたように、この戦いがもはや降伏のあり得ない殲滅戦であるということを、両軍の指揮官がはっきりと理解していたことによるようだ。アデス連邦側は、領土の割譲や賠償金の獲得などではなく、トゥラン王国を完全に地上から抹消してしまおうと望んでいた。そこにどんな政治的意味があるのか、ルスキニア総統の見ている世界像を我々は共有することができないからなんとも推測を下しにくいのであるが、もしアデスとトゥラン以外にも国家が存在するのならそれらに対して大きな脅威を与えることになるし、トゥランの遺民も徹底抗戦を繰り広げるだろうから、そんなリスクを背負ってでも成し遂げなければならない事業であるということだ。


これに対してトゥラン側も、王様やリリアーナ王女がルスキニアの意図をどこまで読んでいるかは定かではないが、攻城船まで大量に動員して直接乗り込んできたアデス艦隊に対し、正々堂々の決戦を挑むことになった。これが歩兵中心の軍隊だったら各地の防衛拠点に籠って時間を稼ぎたいところだが、劇中の様子だと前回のエピソードからそれほど日数が開いているわけではなさそうだし、トゥラン側は広範にわたる防衛線を確立する暇がなかったのかもしれない(この世界の地理がよく分からないが、当然ルスキニア総統は、わずかな日数で王都に進軍する目的もあって、グラン・レイクを会談場所に指定したのだろう)。トゥラン王国としてはただでさえ前回かなりの艦船を失ったばかりであったから、とにかく最大限の兵力を王都に結集させて、王都の防衛力と艦隊戦力を統合して敵にあたるのが、一発逆転への可能性をつなぐただひとつの戦略であった。


そこで、生き残った旗艦ラサスと空族の艦隊で構成された別働隊が、切り札としての打撃戦力に用いられることになる。


圧倒的な兵数を誇る敵に対し、白昼堂々と決戦を挑み、見事これを打ち破ってみせた例は、我々の歴史上にも見出すことができる。その中でもとくに鮮やかだったのがアレクサンドロス大王の用いた戦術で、今回リリアーナが提案したトゥラン艦隊の作戦も、ほぼこれを踏襲する恰好をとっていた。「槌と金床」と称されるこの戦術は、まず頑強な歩兵部隊が敵主力をしっかりと足止めし、その隙に騎兵が戦列を突破したり側面を迂回するなどして敵の背後に躍り出て、その本陣を急襲。前後から挟み撃ちにしてしまおうというものだ。敵の攻勢を受け止める歩兵が金床(材料を乗せる作業台)、振り下ろされる槌(ハンマー)が騎兵、加工される材料は敵の軍勢というわけである。歩騎混成部隊では原則といっていい戦術であると言えるが、役割さえきちんと割り振られていれば、必ずしも歩兵と騎兵が揃っていなければならないわけではない。例えば今回のトゥラン王国の場合は、王都に配置された砲台や艦隊を金床、リリアーナ率いる別働隊を槌として活用しようとした。


この戦術を用いる場合、いくつか留意しなければならない点が挙げられる。まずひとつは、別働隊によって打撃を加える地点をどこに設定するかという問題である。とくにリリアーナ率いる艦隊は、数も質も、敵に比べてあまりにも貧弱だった。そのため、ただ無暗に突撃しただけでは簡単に撃退もしくは殲滅させられてしまう恐れがある。そこでリリアーナは、目標をルスキニア総統ただ一人に狙い定めた。彼を打ち取り、その乗艦インペトゥスを沈黙させることができれば、大軍であるアデス艦隊は指揮系統を失い混乱に陥るはずである。その時に一挙に攻勢をかければ大逆転ができるかもしれないし、そうでなくとも一時的にアデス艦隊を退却に追い込むことくらいはかなうだろう。仮に旗艦ラサスとリリアーナ王女を失うことになったとしても、それに見合うだけの価値を有する作戦であると言える。


もうひとつの留意点は、槌を振り下ろすそのタイミングの問題である。アレクサンドロス大王が見事だったのは、戦局を巧みにコントロールして、自身の率いる最強の騎兵隊を投入するタイミングを慎重に計っていた点だ。例えばカイロネイアの戦いでは、父王ピリッポスが歩兵の一部に偽装退却を行わせたことによって、強靭な槍の壁を形成している敵軍が追撃のためにその戦列を崩すことになり、そうして生じた間隙に向かってアレクサンドロスは騎兵を突入させた。またガウガメラの戦いでは、圧倒的な大軍勢を持って包囲を行おうとする敵に対して、わざと自軍右翼をさらに右方向に転身させた。敵が急いで包囲を完成させようとさらにその戦陣を横に大きく広げていったため、その中央軍と左翼軍の間に隙間を生じさせることになり、そこへめがけてアレクサンドロスの騎兵隊が突撃を敢行したのであった。いずれも、自軍を巧みに動かして敵を誘導し、最高のタイミングで槌を振り下ろせる状況を作り出してみせたのである。


これに対してリリアーナの動きは、劇中の描写を見るに、少々性急に過ぎるきらいがあるように思う。彼女は、アデス艦隊が王都攻撃に着手するより前に、別働隊単独での突撃を行った。この時点では、敵は堅固な戦闘態勢を敷いたままであるので、いくら敵の守りが薄い上空から的確にインペトゥスを狙ったとしても、アデス側にとってはこれに全力で対応するだけの余裕があり、文字通りリリアーナの捨て身の攻撃にしかならない。これを、例えばアデス艦隊と王都軍の攻防が本格化し、できればあと一押しでトゥラン王都が陥落するというタイミングで行ったらどうであったろうか。はなから勝てる戦だと信じているアデス軍は、少しでも大きな戦功を上げようと気持ちがはやっているだろうし、多くの艦船がその注意を前方にのみ向けていることだろう。劇中、一人でラサスに乗り込みリリアーナを攫ってしまったアラウダという男も、もしかしたら別の場所に投入されていたかもしれない。少なくとも、敵がより油断しやすい状況であることは確実であり、リリアーナの突撃が成功する公算も大きかったのではないだろうか。


今回それをやらなかったのは、いくつか理由が考えられる。まずありそうなのが、王都を傷つける前に決着をつけて見せることをリリアーナが望んだのではないかということ。実際、劇中で行われた作戦は間一髪のところで失敗してしまったが、想定外の事態さえ起こらなければ十分に成功の見込みのあった奇襲であったと評価できるわけで、リリアーナの戦術眼が確かなものであったことがよくうかがえる。またもうひとつの理由に、王都の防衛力があまりにも貧弱で、金床としての役割がほとんど期待できなかったかもしれないということが挙げられる。アデス艦隊が本格的に王都攻略に着手したら、月が落っこちて来なかったとしても、ほんのわずかな抵抗しかできずにあっという間に陥落していたかもしれず、そうなれば期待していたような油断(すなわちインペトゥスがより無防備にその姿をさらすような状態)を見ることが出来ずに手遅れになってしまったと思われる。アレクサンドロスのような天才的な用兵なんて、なかなかできるものではないのだから、リリアーナがあえて危険を冒してでもより計算しやすい作戦を選んだのは理解できる。


しかしもっともあり得そうなのは、ルスキニア総統がリリアーナのとる作戦を完全に予測したうえで、彼のもとに特攻してくるのを待ち受けていたという説だ。彼がリリアーナの存命を予想していたのは劇中の描写からも推測できるが、さらに彼が謎の言葉でリリアーナに秘められた力を発動させたのを見れば、ルスキニアの目的は敵の撃破ではなく、リリアーナを生きたまま自分の手元に連れてくることにあったのは自明のことだ。優れた戦術家であろうルスキニアであれば、リリアーナがどのような作戦を用意しているかということ、そしてその作戦を利用して彼女を生け捕りにする方法まで、ちゃんと考えてあったのは間違いない。アラウダがヴァンシップで単身ラサスに乗り込んできたのも、とっさに機転を利かせたのではなくて、最初から計画されていたことだったのだろう。




さすがにルスキニアにとっても、まさかミリアがインペトゥスに乗り込んできて、しかも自分に向けて発砲するような事態になろうとは、開戦前には思ってもみなかっただろう。けれど、リリアーナの力を発動させたのはその弾を回避するためというようにも見えたが、やはり最初から、トゥラン王都にコロニー落としを敢行するのは計画していたことであったのだろうし、そこに至るまでの駆け引きや攻防のすべてが、今回はルスキニアの勝利に帰したと言っていい。彼がこの世界に何をもたらそうとしているのかはまだ分からないが、歴史に残る完敗を喫したミリアと彼女の王国が、今後どのようにして反攻作戦に打って出るのか。現時点ではまったく希望の見えないマイナスからのスタートとなったが、ミリアのこれからの動きと、それを押したり引っ張ったりしてサポートすることになるであろうファムたちの活躍に、注目だ。



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それでは、今回は以上です。


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この記事へのコメント

ラファエル
2011年10月31日 14:20
>これに対してリリアーナの動きは、劇中の描写を見るに、少々性急に過ぎるきらいがあるように思う。

コレについてですが、このアニメの漫画版では、空族が風船に板を張り付けたはりぼての空中戦艦を多数造って偽の艦隊を作り、敵右翼をそれにおびき寄せ、そこに開いた間隙にラサスほか別働隊が突入していました。
おパゲーヌス
2011年11月01日 23:55
>ラファエルさん
ほうほう、面白い奇策を使っているのですね。コミックス版のそのアイディアが誰のものかは分かりませんが、アニメでそれをやらなかったのは、尺の問題か、思いつかなかっただけか、それともデコイ作ってる様子を描くと暇そうに見えて緊迫感が無くなってしまうと判断したのか、いろいろと気にはなりますね。もちろんアニメのほうも決しておかしな描写にはなっていないので良いのですが(むしろ自分としては、あまり奇策に頼った戦闘描写は好みではなかったり^^)

コミックス版も面白そうですね。機会があれば読んでみようと思います。情報ありがとうございました。
ラファエル
2011年11月02日 00:49
いえいえ、こちらこそどういたしまいして。
ついこの前ここに来たのですが、あなたの見事な戦闘の分析に脱帽しました。
以後、たまに来ます。よろしく願います。
おパゲーヌス
2011年11月02日 22:34
>ラファエルさん
光栄です! 戦闘のある回はなるべくきっちり考察したいので(珍しくソレをやらせてくれるアニメなので)、またぜひ読みに来て頂ければ幸いです。
ラファエル
2011年11月04日 08:42
こちらこそ、こんなすばらしい戦闘考察を読ませていただいて感謝しています。
僕は戦略とかはあまり詳しくありませんが、戦闘機の空中戦に関しては詳しいつもりなので、そういう戦いがあった回にはいろいろと僕もきっちりと考察させてもらおうと思っています。
艦隊戦とかの場合は、いろいろご指導お願いします。
では。

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