ラストエグザイル―銀翼のファム― 第11話「Backward pawn」
前アウグスタ登場。西太后みたいな人かと思ってたら、なんだかけっこう名君っぽい?
シルヴィウスが決定的なピンチを迎えて終わった前回から2週間。年を越して再開された第11話は、どうやらグラキエスに保護(拘留?)されたらしいファムが、夢の中で10年前のグランレースを追想するエピソードとなった。
このタイミングでまた回想シーンをやることにどんな意味があるのかと思っていたけれど、ファムたち登場人物の内面描写を重視していたこれまでの回想シーンに比べれば、本編のほぼすべてを費やして描かれた今回の回想がこれまでとはまったく異なる意味と価値を持っていることは明白だ。今回の場合は、より客観的な視点から、歴史の重要な転換点となった10年前の事件を描き出して見せた。今作の物語の枠組みをより詳細に解き明かすと同時に、主要キャラクター全員の、現在まで抱えている決意や想いまでをも照らし出すことで、これまでと、これからの物語をしっかりと肉付けするエピソードとなった。
やはりとにかく面白かったのが、本編で主要な役割を担っている連中の10年前の姿がことさら印象的に描かれた点だろう。ファムやジゼの幼少期はすでに登場済みではあるが、5~6歳(※)の頃、ジゼはすでにヴァンシップの知識を取り込みつつあり、一方のファムはこの祭典のなか自分の本当の家族を探したいと秘かに期待していたりと、特徴的な言動が描かれたのは大きい。とくにファムは、いままであまり家族のことを口にしてこなかったけれど、たぶん16歳になった今でもずっと気にかけているのだろうと想像させる。
※ 日付まで正確に10年前と言うのならファムは6歳になっているはずだが、そこまできっちり設定されているかどうかは分からない。でも、第一回グランレース開催日とおなじ日付の未明にファムがこの夢を見たというのも、あっていいと思う。
リリアーナとミリアに関しては、下手に大人になって国家指導者としての責任感に縛られている現在よりも、10年前の頃のほうがずっと本性が表れているような印象だ。どこまでも優等生で自信家なリリアーナと、興味本位に動き回るミリア。とくにミリアは、ファムによく似た天真爛漫さや強い意志の力を感じさせて、とても可愛らしい少女として描かれていた。妹がこんなだから、姉のリリアーナはなおさら自分がしっかりしなければいけないと思っていたに違いない。またこの頃から王女姉妹は、ルスキニアとのかかわり方が決定的に異なっているのも面白い。トゥラン王も交えて、彼らの「普通の家族」らしい姿を見ることができたのは、今回の何よりの収穫だったかもしれない。
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もちろん、今回最大の見どころは、若き日のアデス連邦の人々の姿だ。ルスキニアの無口でちょっと天然ボケな言動、オーラン&ソルーシュの初々しい青年士官姿、けなげなヴァサントや、この時点ですでにすっかりオジサンなカイヴァーンやサドリ、ヤシュヴァルの健闘を熱く見守るロシャナク男爵。そしてなにより、存命中の前アウグスタの名君っぷりには驚かされた。
アデスの宮中に飾られている前アウグスタの姿は、いかにもふてぶてしい権力者ヅラの女帝といった印象で、その肖像を見て憧れや決意を口にする純真な現アウグスタが、虚構の母親像に騙されているんじゃないかと心配になったくらいだ。しかし今回描かれた女帝の姿は、少なくともこの一局面に限って言えば、長い戦乱に心を痛め、なんとかこの世界に平和をもたらそうと奮闘する、尊敬すべき指導者だった。
ファラフナーズがこの時点で在位何年目だったのかは分からないけれど、しかしアウグスタの地位についたその時からどれほどの苦労を乗り越えてきたかを想像することは難しくない。この戦乱の時代にあってまずはなんとか自国の繁栄を確立しようと粉骨砕身し、そのうえでようやく本来の理想であった、グランレイク周辺のあらゆる紛争・対立を対話によって終焉に導くという目標を、その実現目前まで漕ぎ着けることができた。そんな感慨が、画面の中からひしひしと伝わってきた。王という立場を全うして自国の安定を保つだけでも大変なことなのに、あのグラキエスまで巻き込んで、グランレースというスポーツの祭典を開催することができたというのは、この世界では歴史に残る偉業と言ってもいいのだろう。
そして重要そうなのが、ファラフナーズの口からは帰還民だとか先住民だとかいう話が一切出てこなかった点、また彼女の思想や行動にルスキニアもリリアーナも心酔していた点。とくに現在のルスキニアは、いくら暗殺を見てショックを受けたからって、たった10年でファラフナーズの方針をここまでひっくり返すものかと思ってしまう。むしろ彼は、アデス連邦の中枢にのし上がったり、国家をまとめ上げる口実として打倒帰還民国家を喧伝しているけれども、むしろ本心はまったく別のところにあるのではないかと思えてくる。前回、アデスの皇帝位も女性に受け継がれているのはエグザイルの鍵としての素質ゆえなのではないかと想像してみたところだが、その想像と、前回のリリアーナの裏切り行為は、10年前のルスキニアの涙と結びつけることで、ルスキニアがひとり悪役を買って出て統一戦争なんかに突き進んでいるその裏に隠された意図が、見え隠れしてくる。(永野護『ファイブスター物語』のファンなら、ルスキニアが演じている役割を見てハっとさせられる部分があるのではないだろうか。)
まぁ、具体的なことについてはすべてが今後の展開を待つしかないのだけれど。おそらくアデス軍に拿捕されたであろうシルヴィウスをルスキニアがどう処理するかが、この表情の読みづらい総統の意図を探るきっかけのひとつにはなるだろう。
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それにしても、グラキエス軍は素晴らしいね。軍人はみな若い女性のようだし、学生服を思わせる制服がじつに魅惑的。次回からはファムたちがいよいよグラキエス人と本格的に接触するようで、この第三勢力とどのようなドラマを繰り広げるのか、少女たちの友情や冒険活劇の面でも、また政治劇としても、大いに期待したい。
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それでは、今回は以上です。
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シルヴィウスが決定的なピンチを迎えて終わった前回から2週間。年を越して再開された第11話は、どうやらグラキエスに保護(拘留?)されたらしいファムが、夢の中で10年前のグランレースを追想するエピソードとなった。
このタイミングでまた回想シーンをやることにどんな意味があるのかと思っていたけれど、ファムたち登場人物の内面描写を重視していたこれまでの回想シーンに比べれば、本編のほぼすべてを費やして描かれた今回の回想がこれまでとはまったく異なる意味と価値を持っていることは明白だ。今回の場合は、より客観的な視点から、歴史の重要な転換点となった10年前の事件を描き出して見せた。今作の物語の枠組みをより詳細に解き明かすと同時に、主要キャラクター全員の、現在まで抱えている決意や想いまでをも照らし出すことで、これまでと、これからの物語をしっかりと肉付けするエピソードとなった。
やはりとにかく面白かったのが、本編で主要な役割を担っている連中の10年前の姿がことさら印象的に描かれた点だろう。ファムやジゼの幼少期はすでに登場済みではあるが、5~6歳(※)の頃、ジゼはすでにヴァンシップの知識を取り込みつつあり、一方のファムはこの祭典のなか自分の本当の家族を探したいと秘かに期待していたりと、特徴的な言動が描かれたのは大きい。とくにファムは、いままであまり家族のことを口にしてこなかったけれど、たぶん16歳になった今でもずっと気にかけているのだろうと想像させる。
※ 日付まで正確に10年前と言うのならファムは6歳になっているはずだが、そこまできっちり設定されているかどうかは分からない。でも、第一回グランレース開催日とおなじ日付の未明にファムがこの夢を見たというのも、あっていいと思う。
リリアーナとミリアに関しては、下手に大人になって国家指導者としての責任感に縛られている現在よりも、10年前の頃のほうがずっと本性が表れているような印象だ。どこまでも優等生で自信家なリリアーナと、興味本位に動き回るミリア。とくにミリアは、ファムによく似た天真爛漫さや強い意志の力を感じさせて、とても可愛らしい少女として描かれていた。妹がこんなだから、姉のリリアーナはなおさら自分がしっかりしなければいけないと思っていたに違いない。またこの頃から王女姉妹は、ルスキニアとのかかわり方が決定的に異なっているのも面白い。トゥラン王も交えて、彼らの「普通の家族」らしい姿を見ることができたのは、今回の何よりの収穫だったかもしれない。
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もちろん、今回最大の見どころは、若き日のアデス連邦の人々の姿だ。ルスキニアの無口でちょっと天然ボケな言動、オーラン&ソルーシュの初々しい青年士官姿、けなげなヴァサントや、この時点ですでにすっかりオジサンなカイヴァーンやサドリ、ヤシュヴァルの健闘を熱く見守るロシャナク男爵。そしてなにより、存命中の前アウグスタの名君っぷりには驚かされた。
アデスの宮中に飾られている前アウグスタの姿は、いかにもふてぶてしい権力者ヅラの女帝といった印象で、その肖像を見て憧れや決意を口にする純真な現アウグスタが、虚構の母親像に騙されているんじゃないかと心配になったくらいだ。しかし今回描かれた女帝の姿は、少なくともこの一局面に限って言えば、長い戦乱に心を痛め、なんとかこの世界に平和をもたらそうと奮闘する、尊敬すべき指導者だった。
ファラフナーズがこの時点で在位何年目だったのかは分からないけれど、しかしアウグスタの地位についたその時からどれほどの苦労を乗り越えてきたかを想像することは難しくない。この戦乱の時代にあってまずはなんとか自国の繁栄を確立しようと粉骨砕身し、そのうえでようやく本来の理想であった、グランレイク周辺のあらゆる紛争・対立を対話によって終焉に導くという目標を、その実現目前まで漕ぎ着けることができた。そんな感慨が、画面の中からひしひしと伝わってきた。王という立場を全うして自国の安定を保つだけでも大変なことなのに、あのグラキエスまで巻き込んで、グランレースというスポーツの祭典を開催することができたというのは、この世界では歴史に残る偉業と言ってもいいのだろう。
そして重要そうなのが、ファラフナーズの口からは帰還民だとか先住民だとかいう話が一切出てこなかった点、また彼女の思想や行動にルスキニアもリリアーナも心酔していた点。とくに現在のルスキニアは、いくら暗殺を見てショックを受けたからって、たった10年でファラフナーズの方針をここまでひっくり返すものかと思ってしまう。むしろ彼は、アデス連邦の中枢にのし上がったり、国家をまとめ上げる口実として打倒帰還民国家を喧伝しているけれども、むしろ本心はまったく別のところにあるのではないかと思えてくる。前回、アデスの皇帝位も女性に受け継がれているのはエグザイルの鍵としての素質ゆえなのではないかと想像してみたところだが、その想像と、前回のリリアーナの裏切り行為は、10年前のルスキニアの涙と結びつけることで、ルスキニアがひとり悪役を買って出て統一戦争なんかに突き進んでいるその裏に隠された意図が、見え隠れしてくる。(永野護『ファイブスター物語』のファンなら、ルスキニアが演じている役割を見てハっとさせられる部分があるのではないだろうか。)
まぁ、具体的なことについてはすべてが今後の展開を待つしかないのだけれど。おそらくアデス軍に拿捕されたであろうシルヴィウスをルスキニアがどう処理するかが、この表情の読みづらい総統の意図を探るきっかけのひとつにはなるだろう。
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それにしても、グラキエス軍は素晴らしいね。軍人はみな若い女性のようだし、学生服を思わせる制服がじつに魅惑的。次回からはファムたちがいよいよグラキエス人と本格的に接触するようで、この第三勢力とどのようなドラマを繰り広げるのか、少女たちの友情や冒険活劇の面でも、また政治劇としても、大いに期待したい。
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それでは、今回は以上です。
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この記事へのコメント
今回は、過去の人物が総出演でしたね。幼女時代のグラキエス戦闘機隊の面々もいるとは思わなかったw
それにしても、本当にファラフナーズ、いい皇帝でしたね。失礼だけど、人は見た目どおりではない、というか。
ただ、テロリストたちの襲撃を受けたときに、彼女はなぜずっと動かずにいたのかは気になりますが。動かないほうが、かえってルキアたちが守りやすいと判断したのでしょうか。
ちなみに、グラキエスもレースに参加している(観戦だけかもしれないけど)とわかったときはめちゃくちゃ驚きました。「建国以来」鎖国を通しているといわれていたグラキエスなのに、その国に例外を認めさせるほどファラフナーズの外交力はすばらしかったのでしょうか。
では、また。今年もよろしくお願いします。
ファラフナーズが動かなかった点については、あのヒトに限って足がすくんだってことは無いでしょうから、作中の出来事を好意的に解釈するなら、あえて逃げ隠れできない場所や時を狙ってテロが決行された以上、王としてあれが最善の振る舞いだと判断したのではないでしょうか。じっさい、護衛の人の活躍は完璧に機能しており、ファラフナーズは危ういながらも一応は安全が保たれていました。彼女が死んだのは、ルキアたちが思いもよらなかったトコロへファラフナーズが身を投げ出したからなわけで。逆にあそこであたふたと逃げ回るようでは、外交と軍事の両面で事実上はグランレイクの盟主にまで上り詰めた彼女の品格が疑われてしまったことでしょう。
グラキエス人がいたのは驚きでしたね。ざっと見たところ、軍人が(ひょっとしたら非公式の名目で)来ていただけで、要人が正式に顔を出していたわけではなかったかもしれませんが。じっさいにグラキエス軍人が私用で遊びに来ていた(そんなことが許されるのかは謎ですが)だけだったとしても、アデスにとっては他国に対する大きなアピールにはなっていたでしょうね。
だとすれば、グラキエス軍は一応、ある程度計画的にグランレースに参加していたことになるでしょう。
いずれにせよ国籍明かしたまま旅行するには、非公式であっても国交がないと成立しないでしょうから、今回のグランレースはグラキエスの歴史においても画期的なことだったかもしれませんね。劇中ではそのあたりのファフラナーズの外交力のスゴさがあまり言及されてなかったので、画面の外で想像するしかないのがもどかしいですけれども。
ただこれで、もういちどグランレースを開催するんだというミリアとファムの無茶な約束が、グラキエス人の心になにがしかの波紋をもたらす展開が成立し得ることになりましたね。このあたりの構成力はうまいと思います。