ラストエグザイル―銀翼のファム― 第17話「Dynamic possibilities」

第2次ボレアース攻防戦。攻守交代しての激戦が熱い!


前回の、第三艦隊の寝返りと第四艦隊壊滅の報せを受けて、今度はサドリの第一艦隊が来襲。戦力的には統合軍有利とも思えるが、実際にはサドリの巧みな指揮ぶりが華々しく展開されることになった。

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まず戦略的な観点からこの戦いを振り返っておきたいと思う。今回もやはりボレアース要塞をめぐる攻防であり、この要塞の重要性は以前から言及されているところではあるが、今回の第一艦隊の規模(総勢150隻)を見れば、どうして前回の時点でこの戦力を投入せず、一歩間違えば戦力で劣るハズの統合軍に確固撃破されてもおかしくない状況を生み出してしまったのかという点は、一考の余地があるだろう。


もし統合軍が全力でボレアース要塞に詰め寄せることが明らかであったのなら(実際それは予測されていた)、補修中の第二艦隊はともかく、戦闘に耐えうる3個艦隊のすべてをボレアースに集結し、圧倒的な戦力で統合軍と戦うのがベストだったはずだ。かりにこの要塞に250隻を超える大艦隊を収容することができなくとも、たとえば第三・第四艦隊で要塞の守りを固め第一艦隊はその近郊に後詰として配備しておき、統合軍が要塞攻略に着手したところで側面や背後から包囲・挟撃すれば、かなり有利に立ちまわることができたはずだ。劇中で行われていたように、常に敵と同程度の戦力で博打のような決戦を挑むなど、あまり褒められた戦略とは言えない。


しかしこの疑問から導き出される重要な点は、この戦争の主導権がどちらの陣営に握られていたか、ということだ。開戦前の状況では、アウグスタを奉じてアデス連邦のほぼ全域を取りまとめたヴァサントに対して、ルスキニア派が攻勢をかけて首都と皇帝を取り戻そうとする、というのが、この戦争の流れになるのだと思われた。しかしここでヴァサントがいち早く戦力を結集し、むしろ統合軍の側から攻め上るカタチを取ったことで、攻め手と守り手の立場が逆転する。ルスキニア派としては、敵がボレアースを獲りに来るのか、直接本陣を狙ってくるのかを確定させることができず、結果として戦力をふたつに分けることを強いられてしまった。


本来であれば、占領したばかりでまともな補給を期待できないグラキエス領からさっさと離れて、全軍でもってボレアースに向かうべきだった。しかしそれができなかったのは、総大将たるルスキニアがグラキエス領の奥深くを探検していたからだ。これでルスキニア派は本陣を移動させることができず、かといってみすみす補給線を奪われるわけにもいかないというジレンマを抱えることになった。ルスキニアの探検行をヴァサントが知り得ていたかどうかは謎だが、それでも彼女が敵に先んじて攻勢に出た決断が、功を奏したと言えるだろう。もちろん統合軍としては、多様な民族や軍団の寄せ集めに過ぎない体質上、早めに敵を撃破して士気を高め、組織としての連帯感を獲得しておく必要があった。ルスキニア派の動向に関わらず、ヴァサントはこちらから攻撃を仕掛けるよりほかに選択肢はなかったのである。


一方のルスキニア派としては、敵がボレアースに進出してきた以上、その後の戦略もある程度は見当がつくようになった。ボレアースを防衛ラインとして死守するか、そこからさらに打って出て本陣を狙ってくるか、いずれにせよ統合軍の移動する地域はかなり限定される。ここは、ルスキニアによるグラキエス遠征作戦の際、ボレアースを拠点としての侵攻ルートを詳細に検討していたことがそのまま、統合軍の作戦を予測するのに大いに役立ったことだろう。事実上最後の戦力と言っていい第一艦隊を遠慮なく投入してきたのは、そういった事情があったからだと思われる。また総合的な戦力で劣る統合軍が、それでもここまで健闘できていたのは、以上のように戦略面で優位に立つことができたからだったと考えられるのではないだろうか。


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さて、そのような状況下で行われることになった第2次ボレアース攻防戦。完全無音航行など用いず、むしろ相手方の索敵を放置してまで白昼堂々と進軍してきた第一艦隊に対して、統合軍は城外での野戦を決行する。


サドリの実力をよく知っているヴァサントやオーランが、クレバスの内側に留まって籠城戦を展開するべきだと考えたのは、登場人物たちと一緒にこれまでの戦役を見てきた視聴者にとっても大いに納得できる判断だろう。また仮にそうでなくても、これだけ堅固な地形、活用しない手はない。たとえどんなに有利な状況であったとしても、それでもなるべく自軍の損害を出さずに完勝することができれば、それに越したことはないはずだ。


ただし野戦を主張するのも分からなくはない。前述の主導権の話にも通じるが、今回は攻め手がサドリで、守り手が統合軍なのであって、当然統合軍としては、第一艦隊がどんな手段で攻撃をしかけてくるかはまったく分からない。クレバスの周囲の岩盤を崩壊させて高度限界空域を消失させるとか、そんな突飛な作戦はさすがに想像だにしていなかったとは思うけれど、相手の意図が読めないというのは不気味なもので、経験の浅い統合軍が浮足立ってしまうのは当然のことである。もし要塞を包囲されたまま持久戦になれば、燃料弾薬は補充できても戦意まで維持できるかどうかは分からないし、包囲中にサドリが一部の兵力をアデス領内に派遣すれば、ただでさえ国内の基盤が脆弱な寄せ集め軍団である統合軍はたちまち苦境に立たされることになる。要塞の外に援軍なり同盟国があるなら籠城も有効だろうけれど、この時点ではアナトレーもシルヴィウスも他の帰還民勢力も、とても友軍戦力として計算できない状況だった。籠城もこれはこれで大変リスキーな選択肢だったのである。それなら、勢いに乗っている今のうちに再度敵を打ち破って、統合軍側の優位を確立させておこうという考えは当然あってしかるべきだろう。というか、もし自分がこの軍隊に加わっていたら喜んで野戦を主張していたはずだw かりに野戦に敗れたとしても、それから改めて籠城すれば、この要塞ならそう簡単に陥落しはしないはずなのだから。


しかし皮肉なのは、籠城すれば大丈夫というヴァサントの主張自体が、この要塞がつい先日統合軍によって陥落させられたばかりだという現実と矛盾している点だ。ボレアース要塞に籠城する敵を積極的に攻撃したヴァサントが、どうしてこんどは簡単に籠城至上主義を取ろうとするのか。もちろん前回の戦闘は、第三艦隊がちゃんと働いていれば統合軍はとても勝利できる状況にはなく、だから要塞の防衛力は確かなのだと実感しているところはあるだろう。では今回の戦闘では統合軍のすべての部隊がちゃんと働くのかと問えば、それにYESと答えるようならヴァサントはリーダー失格だ。そしてこの第17話では、そんなヴァサントの弱みを如実に露呈させる戦闘シーンが描かれることになったのである。


第三艦隊に偽の信号を送って統合軍内部の疑心暗鬼を増長させたり、工作部隊を送り込んでボレアースの鉄壁の地形を無効化したりと、サドリの策略はじつに巧みで、的確に相手の急所を狙ってくる。だがそれ以前の問題として、ヴァサントが軍内部の意見を取りまとめることができずにいた時点で、この組織の脆さが完全に暴かれてしまっていた。艦隊司令の意図に完全に服従するアデス正規軍と、寄り合い所帯での民主的な話し合いによって「軍隊」の動きを決定してしまう統合軍。戦闘に際してはどちらがより有効に機能するかは、誰の目にも明らかだろう。


このふたつの軍隊の構図は、覇権を握った後の国家経略を独裁制にするか共和制にするかという政治思想の勝負でもあったと言えるかもしれず、軍事と政治が密接に絡み合う国家の在り方をそのまま表現しているようなところがあって大変面白い。兵器や生活様式だけでなく、こうした国家や組織の存立の仕方まで含めて、近代以前のレトロな世界観を形成するのに大いに活用されている。これだけ奥深い世界観を見せるのが、この作品の本当に魅力的なところだ。


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今回の戦闘は、サドリの第一艦隊が圧倒的優位に立って展開していった。統合軍側が自滅したという部分も大きいが、奇策だけで勝負が決まるわけではなく、当然この戦闘におけるサドリの艦隊指揮官としての実力が大いに発揮された決戦だった。制空権などくれてやれ、というサドリの決断が正しかったのかどうか、戦闘の真っ最中の段階ではちょっと判断しづらい部分があるけれど、これだけの大艦隊に対して、ただでさえ数の少なくなっているグラキエス航空隊が決定的な打撃を与えられないことを、サドリは分かっていたのだろう。ヴァンシップ同士の前哨戦などほとんど気にかけず、性急に艦隊決戦を挑んだ果敢な作戦が、最新鋭艦の数では劣っている統合軍を押し込め、ついには撤退にまで追いやった。こういう正攻法で有能さを発揮する指揮官こそが、奇襲奇策を本当に効果あるものとして活用することができる。ボレアースの地形の有利さが失われた時点でもはや完全に勝負が決まったと言って良く、この時点にいたるまでのサドリの圧倒的な攻勢には惚れ惚れするばかりだ。


グラキエスと第三艦隊が仲違いを起こしたのはヴァサントにとって予想外の事態であったが、同じようにシルヴィウスの奇襲をもろに受けてしまったのは、サドリにとっての予想外だった。けれどもこうした派手で分かりやすい奇襲奇策があくまで戦闘のいち局面に過ぎず、戦局全体の推移を左右するほどには至っていないあたりは、今作の戦場描写のリアリティを感じさせる。奇襲奇策こそが戦略戦術の要諦だと考えているような他作品の天才軍師たちと、サドリやヴァサントたちはまったく異なる次元で戦争を演じているわけだ。真正面からの力押しで堂々と戦うやり方は、筋肉脳の愚将ではなく、真に有能かつ豪胆な英雄の証明だ。サドリだけでなく、今作に登場する将軍や指揮官たちは、みなこうして戦ってきた。勝者も敗者も等しく栄誉にあずかることのできる舞台こそ、今作で描かれている戦場であると言えるだろう。


かれら英雄たちの戦いを止めたのが、サーラの鶴の一声だったのは、虚しさや惨たらしさが強調されるこの戦役における、かけがえのない清涼剤だった。紙切れ一枚で戦闘行為を停止してしまったのは、ルスキニア派と統合軍の戦いが内乱として展開していたからに違いはないのであるが、さらに一歩踏み込んで、サーラがヴァサントからの傀儡を脱して自分の意志で動いたというその事実が、騎士として戦うサドリやヴァサントたちの心に通じたからであった。とくにサドリは、勝利を目前にしての戦闘停止。つくづく勇気のある人物だと思う。


そしてこの停戦を実現させたのが、ここにきてよーーーやく役に立ったファムの活躍。平和を希求する彼女の思想がアウグスタをはじめとする人々の心を動かしただけでなく、それをようやく行動に、結果に結びつけることができた。主人公としてとても恵まれたポジションにいながら、やっぱりどうしても無力で、口ばかり動かして足が空回りしていたようなファムだったが、長い不遇と葛藤を乗り越えてようやく成果らしい成果をつかむことができた。停戦交渉を阻止しようとするディアンの制止を振り切ってきたという実績も手伝ったのだろう、きっとサドリはファムの顔を見て、この停戦命令が嘘でも罠でもなく、ヴァサントの意図とは関係なしにアウグスタの本心として発行されたものであることを、直感で理解したはずだ。


それでも、これで戦争が終わると歓喜する少女たち二人は、やはりまだ無思慮すぎるというか、こんなところで彼女らがただの子どもに過ぎないことを痛感させられてしまう。アデス軍元帥たるサドリがアウグスタの名のもとに停戦を受け入れたことで、ルスキニアは軍の支持を事実上失ったのは確かかもしれない。けれどこんなところで終わりにはならないことは、ファムたちだって分かっていなければいけない。今後の国家運営方針だとか、帰還民と先住民の居住領域の問題だとかは、政治屋の連中にまかせておけばまぁ良いとしても、親友ミリアの家庭問題は厄介な懸案事項だ。ルスキニアのもとにミリアの姉のリリアーナがおり、トゥランのエグザイルを好き勝手にしているという現実を、ファムたちはどうするつもりなのだろうか。ルスキニアたちの動きともども、次回の展開に注目しておきたい。



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それでは、今回は以上です。


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