氷菓 第18話「連峰は晴れているか」

惚れた!? ひょっとして惚れたっ!?



今回はどうやら1話完結型エピソードだったのだろうか。すでに18話目ともなったけれど、いままでの中でいっちばん、好きな回だったかもしれない。静かながら胸に迫るストーリーや、奉太郎の見せた新たな人間性もさることながら、ここにきて急速に進展を見せた(?)ヒロインとの関係性に俄然、注目したくなってくる。今回は二重三重の意味で、じんと感じ入るものがあった。


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放課後の何気ないひと時、ふと思い出した中学時代の恩師の記憶が、怠惰な学生たちの格好の話のタネになる。おやじギャグが大好きで、それもくだらなければくだらないほどツボにハマる自分としては、里志の「サンダー!」に大爆笑してしまった。一瞬、意味分からなくて沈黙してしまったけどね。里志の言わんとしているところをすぐに察してシカトを決め込む三人と、高度なギャグが通じなかったのだと勘違いして二度目のサンダーを唱える里志の姿が、また傑作だった。


そんな和やかなムードの中から、今回の推理テーマが浮上する。表向きは、小木先生の「ヘリ好き」と「雷に三度撃れた伝説」の接点がどこにあるのか、奉太郎のふとした着想から取り組むこの謎解きが、今回の課題だ。しかしその裏にある真の謎として、”あの”奉太郎さえ突き動かすことになったその動機はなんなのか、彼がいったい何を気にしているのかを、解明することだ。小木先生の謎についてはいつも通り奉太郎が推理を担当することになるのだが、彼について行って手助けと観察を行い、真の目的を達成するのが、千反田えるに課せられたミッションである。


ヘリコプターと雷の共通点とは。最初自分は、小木先生が雷に撃たれたトラウマから、ヘリの音を雷と勘違いしたのではないかと想像した。イメージ映像の小木先生の表情は、どことなく焦っているように感じられたのもあったし。けれどコトはそう単純ではなく、奉太郎は「雷」というキーワードから、迷うことなく高山の天気を連想する。このあたりの勘の鋭さはさすがで、市の図書館での新聞検索という何でもない作業だけで、目当ての情報にたどり着いてしまった。


真相は、小木先生は自身も登山家であったことから、目下進行中の遭難事故に心を奪われており、現状でもっとも確実そうな救難方法であるところのヘリコプターによる捜索の開始を、いまかいまかと待ちわびていたということだった。奉太郎は、おぼろげに思い出した当時の小木先生の表情を「たぶん、笑っていたと思う」と話す。それがどこまで事実だったかどうかは分からないけれど、当時の先生のおかれた心境を想像し、また「ヘリが好きなんだ」とごまかしたその態度から連想した奉太郎の言葉は、恐らく、かなり正確に当時の情景を描写できていたことだろう。




これも、里志流に表現されるところの「期待」のひとつの現れと言うことができるかもしれない。小木先生は遭難事故のニュースを聞いたとき、いますぐにでも自分で飛び出していきたかったに違いなく、しかし天候がそれを許さず、また社会人としての責任を放棄するわけにもいかず、何より自分が駆けつけてもできることは限られていただろうから、とにかく天に祈り、捜索隊に祈るしかなかった。自分がどんなに望んでも実現不可能なことを、他者に頼り切って叶えてもらうしかない、そんな切ない「期待」の姿が、そこにはある。そしてそれほど切実に願わなければならないほど状況が切羽詰っていたことは、数日後に遭難者が遺体で発見されてしまったことから容易に推察できる。


中学入学当初で、小木先生との交流もまだ少なかった3年前の少年には、先生がどんな心情の変化を経験していたのか、それを表情から察することはできなかった。けれど、断片的な記憶や情報のピースをつなぎ合わせる術を手に入れたことで、奉太郎は真実にアクセスできる権利を有するようになった。推理は、ただ現象の正しい姿を描き出すだけではない、そこに見出された事実に付随して、どんな人々の感情が、願いが、後悔があったのか、それら心のありようまでも含めた上での真実を、照らし出すことができてしまう。


そんな自分自身の才能を自覚しているのかいないのか、常にぼんやりとして感情の起伏が少ない奉太郎が、独白も含めた言動のさらに裏側でどんな気持ちを蠢かしているのかが分かりづらいのでもどかしいのだけれども、しかし彼は自然と、物事の実際だけでなくその周囲の人間の隠された心までをも暴き出してしまう推理という行為に対して、ある種のブレーキングを施そうとする姿勢が窺える。


他人の気も知らないで、ただ目の前に転がっているデータを一面からのみ認識して良しとするのは、相手に対して失礼だと考える。このような信念は、第1話目以来ずっと、推理によって見えてきた真相の先に、奥深い人間の感情を見せつけられてきたからこそ、ようやく身に着けることができるようになったのだろう。そしてまた、人間に対して無知であると自覚する彼が、せめて思考によって人間を理解し、感情の起伏を会得しようとする試みと言ってもいいのかもしれない。いずれにせよ今回の一件は、彼がこれまで積み重ねてきた成長の成果であると同時に、今後もさらに成長を遂げようと無意識に志向する姿でもあると言えよう。


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そんな奉太郎を見て、千反田はどんな気持ちを抱いたのか。こちらは常に感情優先に行動するあまり、自分の目的や欲求や心のありさまを上手く言語化することのできない人間であり、残念ながら彼女の心に湧き上がった感情は明確なカタチを与えられることはなかった。


けれども、奉太郎が今どちらを向いて進もうとしているのか、それを知って千反田は心より嬉しく思ったはずだ。今までなら、事実のつじつまさえ合えばそれで事足れりとしてきた奉太郎が、今回はきちんと他者の気持ちを思いやり、自分の推理力を他人を理解し共感するための道しるべとして活用しようと試みたのだ。それも、自分の口癖を差し置いて、自らの足で行動を起こして見せるくらいの高い関心を持って。


誤解を恐れずに言えば、奉太郎はたぶん、千反田えるにとって「好みの」探偵に近づいてきたのではないかと思う。そのような変化を与えたのが他ならぬ千反田自身であることを、彼女が自覚しているかどうかは謎だ。けれど、千反田えるというヒロインが、主人公にとってどのような導き手であって、どのようなことを彼に期待しているのか、その方向性が明らかになってきたように思う。


奉太郎の新たな人間性に気付いた千反田が、今後彼に対してどのようなアプローチをかけていくのか、これは次回以降じつに楽しみな点だ。そして奉太郎にとって自分がどれだけ特別な存在であるかを自覚するのがいったいいつになるのか。奉太郎はもうかなり前から千反田に好意を抱いているように見えるが、千反田のほうの変化もすでに始まりかけているようで、この二人の関係に目が離せなくなってきそうだ。




まだまだ見どころの絶えない『氷菓』。むしろいままでがプロローグで、これから本番が始まるのかもしれない。楽しみにしたい。





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それでは、今回は以上です。


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この記事へのコメント

あるるかん
2012年08月23日 19:36
奉太郎の違う一面が見れたというえるの顔は、少女というよりも女って感じがしました(笑)。

奉太郎の不器用な優しさや誠実な心を知ったえるがまるで、彼にときめいて無自覚ながら、惚れてしまった風に見えましたね。
原作は『クドリャフカの順番』以外では、ほとんどが奉太郎視点の一人称小説なので、えるの心中はよくわからないのですが、奉太郎にはえるへの恋慕を感じさせることはあるんですよ。明言はされてませんが。
おパゲーヌス
2012年08月25日 08:30
>あるるかんさん
もともと千反田の「気になります」モードは、対象への興味・好奇心を全身全霊で体現していて、その対象にもっとも近いところにいる奉太郎にも同じような視線が向けられているという点で、恋愛時と近い態度になっていたというのはあったんですけれど、今回は奉太郎に対する興味がより直接的に発信されそうな気配になっていました。
奉太郎は、付き合うかどうかと問われれば回答を保留するだろうとは思いますが、でも好意の有る無しで言えば、第3話あたりからすでに奉太郎は千反田を特別な女性として認識し始めていたような描写にはなっていましたね。

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