氷菓 第19話「心あたりのある者は」

斜めに向かい合って座るのは、相手に好意を持っている証なんだそうですね。本当かどうかは知らんけど。



今回も1話完結エピソード。でも千反田と奉太郎が淡い恋心を育むシリーズだと考えると、前回の続きなのかもしれない。


中間試験直後の放課後、たまたま二人きりで部室に居残っていたところから、今回のお話は始まる。一学期のころだったらこんな状況でもほとんど会話が行われなかったんじゃないかと思うところだが、学園祭をきっかけに妙に人懐こい一面を見せることになった奉太郎が、千反田の話に悪ノリして、ひとつ推理対決といこうじゃないかと意気込む。


奉太郎の才能を褒める千反田と、しつこいくらい謙遜する奉太郎という構図は、どことなく既視感がある。しかし以前の件でよほど懲りたのか、はたまた千反田に余計な期待を抱かせたくないと考えたのか、自分の才能を否定するために才能を披露してみせるという、ずいぶんとトンチンカンな方法を選んだ今の奉太郎の人柄は、可愛げも可笑しみもあって、嫌いではない。


この奉太郎の作戦が最終的にはうやむやに終わってしまうことからしても、彼の目的と行為は最初からまるきりピントがずれていたのだけれど、推理を始めるとすぐそれに夢中になってしまったのは結果オーライだった。以前のひねくれた性格の頃だったら、ひょっとしたらわざと欠陥のある推理を披露して行き詰って見せ、それによって千反田の落胆を買うという選択肢もあったはずだ。しかし公平性を期するためか、ただ単に楽しくなってきたからなのか、いずれにせよ彼は持てる才能のすべてを注ぎ込んで推理に取り組み、千反田の信頼と、ついでに事件の真相を解き明かすという成果を得た。いよいよ千反田の好感度を高めてしまったと言えるだろうし、あるいはそろそろ、彼も自分のすぐれた才能を改めて自覚しなおしても良い時期に差し掛かっているような気もするが、どうなのだろう。




二人きりの会話劇でほぼすべて構成されていた今回のエピソードは、いつも以上に、奉太郎の思考をひとつひとつ説明してくれていたのが面白かった。彼は突然のひらめきも優れているのだが、それを思考のパズルとして一枚絵に組み立てていく過程を、天才ゆえの不可解な才能としてではなく、頑張れば誰でも辿ることのできる道筋として示してくれているところに、今作の謎解きの魅力がある。たとえ用意されているのが奇抜なトリックだろうと日常のふとした疑問だろうと、奉太郎の採用するやり方は常に堅実で、説得力に満ちている。当初は地味な印象の否めなかった彼の推理は、しかしド派手な発想で手品師のような推理を披露する多作品の探偵より、ずっとスリリングで、真に迫るものがある。


とくに今回、たった三行程度の放送から真実を探り出した奉太郎の推理は、きっかけの放送内容それ自体が何でもないようなものに感じられただけに、結論の予想外の重さや、それに至る道筋の複雑さには舌を巻いた。ひとつひとつ疑問を拾い上げ推論や解答を与えながらだんだんと真実に迫っていく奉太郎の姿は、数字と記号の羅列にしか見えないまるで暗号のような数式を、既知の原則やルールにのっとってスラスラと解き明かしてしまうような快感と驚きがあった。




まぁ今回のお話は、奉太郎がいかに優れた探偵であるか、ということではなく、この作品の作者がいかにすぐれたミステリ作家であるかという証明であるとは思う。自分はミステリなんてほとんど縁のなかった人間だからかもしれないが、推理モノにもこういうカタチの作品が存在し得るのかと、毎週のように驚かされている。自分のイメージする推理モノ探偵モノといえば、もうそれは「犯人はこの中にいる!」から始まって、手品なイリュージョンのようなインパクト重視のトリックを、それが魔法ではなく物理法則に則って成立し得るトリックなのだと(はなはだ苦しい態度で)表明したうえで、お涙ちょうだいな犯人の心情吐露をもって締めくくられるという、そんな型にハマりきったジャンルでしかなかった。それを、派手さよりも合理性を重視した、それでいて十二分に迷宮的なトリックを「解き明かす」過程に心血を注ぎ、推理という行為の面白さを見せるためだけに多大な尺を費やして、これをゾクゾクするようなエンターテイメントとして完成させているのだから、見事というより他にない。


2週連続で1話完結型のエピソードをやってくれたおかげで、次回(お正月エピソード?)がどんな展開になるのかはまったく想像すらできないけれど、最近絶好調に見える奉太郎がふたたびどんな推理を披露してくれるのか、楽しみで仕方がない。もちろん奉太郎と千反田の恋の行方も気になりはするけれども、奥手の彼らのことだからどーせ大した進展はまだないだろうと推測している。次回はとりあえず千反田の和装と、それに対する奉太郎の反応に注目しておきたい。




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それでは、今回は以上です。


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この記事へのコメント

2012年08月27日 23:31
通りすがりに。

そういえば確かに、平和な中の事情などを推理するドラマを待っていた自分が居ました。

なんだったかの人物伝で、昭和アイスキャンディの当たりを引いた子供が何か気を効かせるイタズラしたって感じの話をテレビで見て、
どうせなら人の気持ちからの行為などを推理してほしいなーと。

たぶん、金田一はじめと江戸川コナンが、殺人や爆弾ばっかりだったのと、
自分の人生問題が対人関係だったので対人関係に役立つ人間性を見たかった、と思います。

残念ながら忘れてますが、
アニメのアガサおばさんみたいなアニメの、平和推理に感心し、そのあとの殺人事件でガッカリしたことがありました。

とにかく平和な起承転結で、実際に役立つ知識が欲しいっていうか。

このブログ記事を読むまで、氷菓が平和な推理だと気付かずに居ました。

なんか中学生日記みたいな雨と泥沼を警戒していたし、
ヒカルの碁みたいな高みを目指す修行みたいな展開も警戒していたし。

もしも平和な推理でシリーズがまとまっているなら、
他人へのプレゼントに向いているかも。

小中学校の図書館に、怪人二十面相やルパンの横に、ラノベが並ぶのも良さそうに思えてきました。
おパゲーヌス
2012年08月29日 22:27
>msmr_masachikaさん
コメントと気持ち玉、どうもありがとうございます。

そう、まさに「金田一少年の事件簿」とか、あの手の漫画やドラマが流行っていた頃に少しだけ推理モノに接したくらいでしたので、そのイメージで今作の第1話を見たときに、殺人事件すら起きないで探偵が成立するのだろうかと、驚かされました。そしてその地味なイメージを、ときには打ち破り、時には逆手にとって有効活用したりして、見る見るうちに面白いドラマを展開していってくれているので、感心させられます。

小中学校の図書館にラノベというのはアリですね。というかもうけっこう置いてあったりするのではないでしょうか? 原作を知らないので軽々しいことは言えませんが、でも今作のような文学性の高い作品ならラノベコーナーではなく著名な文学作品の隣に置いても違和感ないのではないかと、つい思いたくなってしまいます。

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