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zoom RSS 氷菓 第22話(最終回)「遠回りする雛」

<<   作成日時 : 2012/09/17 21:48   >>

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奉太郎がいい感じに籠絡されてきたところで、完。終わるのはやいよー



少なくとも全24話はあるだろうとばかり思っていたので、最後にもうひとつくらい長編エピソードを見せてくれるだろうと期待していたのだけど、わりとあっけなく最終回を迎えてしまった。はなはだ残念ではあるが、こうして惜しまれながら終わる作品は良い作品と言えるわけで、この2クールを大いに楽しませてくれたことには感謝したい。一歩間違えれば地味すぎてとっくに埋没していたであろうこの作品を、ここまで生き生きと描き盛り立ててくれた京アニの手腕は、さすがと言うほかないだろう。


最終回は、お正月のときを遥かに上回る晴れ姿を披露する千反田と、彼女にメロメロにされてしまう奉太郎という図式のエピソード。ただしそこは『氷菓』という作品の特異さが発揮され、単に甘いだけの恋物語ではなく、その裏に潜んでいたほろ苦い心情が吐露されることとなった。正と負のそれぞれの感情を微妙なバランスで配合し、若人ならではの期待と不安に彩られた独特の空気感を画面中に再現してしまう、作り手の技が光るエピソードであった。




今回のミステリ題材は、雛祭りの行列がどうして予定外のルートを通らなければならなかったか。自分は最初、奉太郎が千反田から依頼を受けたのがエイプリルフールの日であったことや、当日の彼女の落ち着いた対処の仕方などから、奉太郎と少しでも長く並んで歩きたい千反田の仕掛けたトリックなのではないかと思っていたのだけど、考えすぎだったようだ。都合よく傘持ち役が怪我したことになってたりと、状況証拠としてはこの線でイケると思ったんだけど・・・。私服に戻った千反田が勢い込んで奉太郎のもとに駆け寄ってきた時点で、この推測は外れてしまった。やきもきさせるよなぁ。


犯人の見当がついている二人が、手のひらに文字を書いて見せあいっこするシチュエーションは、三国志演義からのアイディア。このゲームを千反田から提案したということは、彼女は相当に自信があったのだろう。ただ犯人は分かっても、その動機はまるで見当がつかなかったからこそ、こうやって奉太郎の推理を聞きたがっているというわけだ。奉太郎が導いた推理には千反田には知りえない情報が盛り込まれており、偶然にもうまく情報を拾って行ける役回りはやはり探偵ならではのものと思うが、推理のヒントとなる情報を、まるで何の重要性も持たないセリフとして提示してある巧みさはさすがで、今回もしっかり、推理モノとしての条件をクリアしている。地味な題材でも気を抜かない今作のブレの無さは信頼に値するものだ。


----


今回の一番のポイントかつ見どころとなっていたのは、やはり、どこか寂しげな表情で自分語りをする千反田えるの姿だろう。奉太郎に関してはいままで以上にメロメロになっていた様子であったのだから、ロマンスを盛り上げるためには当然、千反田もそれに応えるような恋の燃え上がりを感じさせて欲しかったところだが、作り手はあえてそれを回避し、むしろ唐突さを感じさせるようにして、千反田が胸の中に抱えていた故郷に対する想いと、自身の人生に対する漠然とした予感を吐露させた。


たまたま二つの村の対立に話題が及んだからといっても、このときのセリフの密度はやはり異常であり、脈絡がない話だとして奉太郎を戸惑わせかねないものがあった。それでもあえて千反田がこの話をしたというのは、それは彼女がもうずいぶんと前から、こうした話を打ち明けたいと考え続けてきたということなのだろう。ただのクラスメートやサークル仲間であるうちは、共有する必要のない話である。また親友であっても、好んで打ち明けたくなる話題ではない。ただ、もう間もなく2年生となって、将来の進路に対して具体的な対策を迫られつつあるというタイミングと、さらに奉太郎がすでに彼女にとって特別な存在になりつつあるという状況を踏まえて、思い切って告白したということだと思う。


彼女の告白の内容とは、ようするに、自分がいかに土地に縛られた人間であるか、と披露してみせるものである。土地とはいっても、それは位置的な問題だけでなく、そこに暮らす人々とのかかわり、家や一族や村といったコミュニティとの深い因縁に関することでもある。これまでも千反田えるという少女のおかれた社会的地位や、その属するコミュニティの実態を断片的に示してきた今作だが、それらははたから見ていれば独特の因習に興味をそそられるかもしれないが、実際に関わり合いになったり、ましてやその中心部で活動しなければならないとなれば、はっきり言えば面倒臭いことこの上ない類のものだ。そしてそれは、省エネ主義を標榜する奉太郎にとっては理想の生き方を妨害する邪悪な人間関係に他ならず、もし千反田と奉太郎が個人的により親しくなった場合には、近いうちに必ず一悶着起こしかねない。いくら千反田個人が魅力的な友人(もしくは恋人?)であったとしても、その背後にある無限大の厄介ごとを目にすれば、奉太郎はすぐに嫌気がさし、けっきょく千反田個人にたいする興味さえも失ってしまうかもしれない。それが、千反田には怖かったのではないかと思う。


千反田個人と仲睦まじく結ばれながら、同時に厄介ごとを追い払う手段も、無いわけではない。発想自体は簡単で、ようは二人でどこか遠くへ駆け落ちしてしまえばよいのだ。奉太郎は土地にも人間関係にも執着しないだろうし、世界中を飛び回っている姉を持つ彼ならば、ワールドワイドに広がった視野でもって二人だけの新天地を見つけ出すことも不可能ではないだろう。そしてそんな人生は、千反田にとっても夢のあるプランではなかろうか。


だが今回の彼女は、奉太郎がそんな発想に思い至る前に、自分はこの土地から離れることはないと、はっきりきっぱり釘を刺した。もし自分とこれ以上近しくなりたいのなら、どうか千反田家の面倒くさい慣習を受け入れてくれなければならないと、半分脅しつけたような恰好だ。奉太郎がどこまで千反田の声を受け取っているかは謎だが、少なくとも千反田としては、それくらいの覚悟をもって告げていたはずである。将来どのように故郷に貢献できるかをすでに真剣に考えているとも打ち明けたのは、奉太郎に対してはもちろん、自分自身に対しても、二重三重に決意を固める意味が込められていたのではなかっただろうか。彼女の決意に満ちてはいるが、同時にどこか寂しげで、何かを断ち切ることの切なさや、相手の反応を恐れるかのような表情には、好奇心旺盛な子どもとしての自分自身に対する、ある種の挑戦的な態度が込められていたのかもしれない。





2年生、3年生、あるいは大学進学や就職を決めたその先に、改めて二人がどのような人生設計を行っているかは分からない。ただ現時点では、どうやら奉太郎は、千反田の持ち寄る厄介事なら喜んで自分も力を貸そうというくらいには、気持ちが固まってきているようだ。その気持ちを千反田に打ち明けきらずに終わってしまったのは、里志が摩耶花を受け入れる覚悟を固められないのと同じように、奉太郎もまた、以前からの信念と、新しく湧き上がってきた活力との間で、どちらを選ぶか決められていなかったからではある。だが、今はそれでいいのだろう。彼らにはいましばらくの間だけでも、考えを保留する権利があり、考えを変えてしまえる自由があるのだから。


この、「期限付きの無責任さ」こそが、青春時代の輝きというものであろう。




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それでは、これにて『氷菓』の各話感想記事は終了とさせていただきます。いままでお付き合いいただき、どうもありがとうございました。


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
一番影響力のある長老が奉太郎に最も友好的なのがいいですね。

原作とは構成が違うために、最終回の印象も大分かわったと思いました。まあ文章と映像では勝手が違いますからね、仕方ないでしょうね。原作に忠実すぎるのも問題かなと思います。
アニメオリジナルの追加点は、バレンタインのその後の話、入須との会話。変更点は桜並木のシーンでの会話は原作では縁側のまま。目立った箇所はそのぐらいです。アニメでは絵が動かないままよりも、そちらのほうがよかったのでしょうね。


入須との会話があったのは個人的には嬉しかったです。原作では、『愚者のエンドロール』以降、彼女と奉太郎の会話はなかったので、その後の2人の関係を見てみたかったんです。案の定、入須を警戒してましたが、彼女はそうさせてしまったことに負い目を感じてたり、また少し寂しいそうな感じではありませんか?
入須は女帝と慕われながらも、文化祭では一人で文化祭を回ったりするなど、実はお一人様歴が長そうですよね(笑)。
あの性格と雰囲気から、ご学友はいても友人は少なそうに思えますし、理解者もいないのかも。だからこそ、奉太郎ならいい理解者兼友人になれるかもと思いました。今の奉太郎なら入須を許せそうだと思います。

まあ私としては、入須が好みだからえるルートより冬実ルートのほうが嬉しいんですがね。ちなみに好きな女性キャラクターはいますか?
私は上述の通り、入須冬実なんですが。


奉太郎がバレンタインでの里志に共感した時点で、どのような感情なのか白状しているようなものですよね(笑)?
あの2人が恋をしたら、色々大変かもしれませんが、ある意味、奉太郎は婿としてはいいかもしれませんよ?政治的にも歴史的にも何のしがらみもない一般家庭の奉太郎なら良くも悪くも影響がないかと思いました。
あるるかん
2012/09/19 19:26
>奉太郎がバレンタインでの里志に共感した時点で、どのような感情なのか白状しているようなものですよね

この場合の「共感」は、相手を好きなのだという自覚そのものよりも、そうした感情と自身の主義や信念との折り合いがどうしてもつかない場合、自分はどうしたらよいのか本気で分からない、という戸惑いに対する共感でしょう。奉太郎がすんでのところで告白を回避したのは、これを残念がる声が多かったように思いますが、自分は奉太郎の「告白しない」勇気を評価しましたね。そう簡単に千反田の世界に取り込まれてもらっては困るし、また千反田の描きえない将来像を提示できる可能性があるという点も、千反田のフィアンセ役としての奉太郎には期待したいところです。あの場で感情に流されて、故郷に縛られる千反田の人生に付き合う決断を下してしまったら、それが二人にとって本当に幸福で価値のある恋人・夫婦関係に発展するかどうか、疑問に思います。

また二人が恋愛感情を育んだとしても、千反田家のご両親が奉太郎を見てどう判断するかはまた別でしょうね。今回は村の長老には良い感触で接してもらえましたが、大事な箱入り娘をくれてやる相手としては、今の奉太郎では満足させられないと思います。何のしがらみもない一般人=何の土台も力も持たない平凡男に過ぎないのですから。

いや、まぁいまの段階でそこまで考える必要は皆無なのでしょうけれどw でもそこまで考えさせられてしまうような生々しさが、今回の千反田との会話にはありましたから、奉太郎も一時の感情の迷いではなく、時間をかけてちゃんと自分の意思を固めていくべきだとは思いますね。

>好きな女性キャラクターはいますか?

女性キャラに限定するなら自分も入須にもっとも惹かれますかね。でも里志の小悪魔的な可愛らしさには負けます。
おパゲーヌス
2012/09/19 23:17

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