うみものがたり 第9話「愛する心」

今回は非常によくできた回だった。もっと早い段階からこれだけの良質なものを見せて欲しかったなぁ。

脚本に吉田玲子、コンテに佐藤監督、演出に川崎逸朗と、実力者が名を連ねていただけのことはあった。とくに脚本は良かったです。光と闇の関係性についての話は、第6話のときに伏線があったものをここで拾ってきたわけだけど、光があるからこそ影が生まれるという現象や、日食という現象が、このドラマでは何を象徴していたかというのがここにきて明らかになってきた。それを、セドナとの対決に絡めて語るのではなく、あくまで夏音の人間関係を主軸にして描いていたのが良かった。

本当に、魔法少女バトルはいらないなぁと思うw まぁ限られた話数の中で、今作に込めようとするメッセージ性をいかに伝えるかという部分で、魔法少女モノという比較的分かりやすいジャンルを選んだというのは、作戦としては納得できる。



光と影、といえば、やはりどうしても思い出されるのは『ゲド戦記』。そこでも、光があるからこそ影があって、両者は不可分の存在だというのが第1巻のテーマになっていたわけだが、「うみものがたり」で描かれているテーマとは、似ているけどちょっと趣が異なっているように思いますね。というのも『ゲド戦記』では、光と影の存在をあくまで自分自身の中にある要素としてどう扱うかというのが主眼に置かれていて、そこには、一人の人間としてどう生きるか、その思索が物語の根底に流れている。神と自分との一対一の契約を基盤とした信仰観を持つキリスト教文化を土壌とした典型的なテーマ設定であり、今思うとあれはヘッセ『デミアン』の影響があったんではないかと思う。


一方「うみものがたり」はどうかというと、もちろん邪悪オーラを持ちながらも巫女になれる夏音というキャラクターを通して、一人の人間のうちに共存する光と影の存在を語っている部分はあるのだけど、今作ではそこをことさらに強調することはなく、むしろそれは人間としてごく普通のことだという立場にまず立ちながら、光と影の対比を、他者へ向かう愛情と憎しみという図を象徴するものとして描いているように見える。


夏音は子供の頃から邪悪オーラ満載だったわけだが、それは、本当は他人と仲良くしたいという感情の裏返しであり、人を好きになれるからこそ、好きな人との別れを怖がって、人を好きにならないよう努めていたという話だった。ここには、『ゲド戦記』に描かれていたような、自分自身の生き方をいかにして確立するかという自己完成への葛藤といったテーマはまったく見られず、あくまで他者と自分をどう向き合わせるかという視点に立っていて、この作品が、あくまで人と人との心の繋がり、絆に焦点を当てたドラマであるというスタンスが見て取れる。


そしてこの観点からマリンというキャラクターを見たとき、序盤の頃に見せた彼女の天真爛漫な笑顔と「愛してる」の言葉が、影の存在にまったく気付かない、無邪気だが子供っぽい、そしてともすればまったく薄っぺらいものだったというのが見えてくる。まだこの作品のテーマが見えてなかった頃は、マリンの笑顔や言動に癒しや萌えを求めることもできただろうが、その純粋さ、無思慮さがウリンに対してはひどく残酷な仕打ちとして表れるのを見たとき、光(愛情)が影(憎しみや苦しみ)を生むことをよく分かっている夏音の「好き」と、そんなことにまったく思い及んでいないマリンの「好き」の根本的な差異が明らかになる。マリンとウリンの「好き」は、影の存在に気づかない、幼さと危うさを秘めた「好き」であって、それが、ウリンがセドナに取り込まれ、マリンが変身できなくなったという事態につながっている。


このあたりの関係が分かってくるとようやく、この作品が何を描きたいのかというのが見えてきたように思う。最初は、真っ黒な夏音が、純粋なマリンの影響で、よりポジティブな人間関係を作る努力ができるように成長していく様を描くのだろうなと予想していたのだけど、実際はむしろ、単純で幼い思考で行動していたマリンが、夏音と出会い、また辛さや苦しみを経験して、人間的に成長していく様を描くというのが主軸になっているようだ。そしてその中で、人の生きるということがどういうことか、その一端を描こうというのだろう。「ARIA」があくまでファンタジーとして、人や人の生きる世界の良い面を強調して描かれていたのに対して、今作はより地に足のついたテーマ性があると思う。



あとはこのテーマを最終話までにどう描いてくれるのか、スタッフの力量が問われる。今回はラストで小島が敵につかまってしまい、再び魔法少女モノ展開に突入する感じだが、あまりこの展開は歓迎できないなぁ。



にほんブログ村 アニメブログ アニメ感想へ
にほんブログ村

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック