魔法少女まどか★マギカ 第6話「こんなの絶対おかしいよ」

うわあああ! キュゥべえ貴様なにしやがったぁー!!




・こんなの絶対おかしいよ……。


なんという衝撃的な設定。マミさんが退場することになったエピソードよりも、ずっとずっとショッキングだった。


これは、もはや宗教の問題だ。自分の魂が、どこに収納されているか。自分の肉体が、魂と不可分の機能を果たすことができているかどうか。自分の死が、肉体の崩壊だけではなく、いつ失くしてしまうかも分からないような装飾品に左右されるという気色の悪さ。そう、気色悪いのだ。魔法少女は、一皮むけば、細い糸で操られた死体人形でしかなかった。それは極めて合理的ではあり、合目的的でもあるのだが、それを容認できるかどうかを判断するのは、宗教の取り扱う分野の議論になろう。


恐らく、肉体を操り人形にして魔法でコントロールしている、という設定については、現代の人々は劇中のまどかや杏子ほどのショックは受けないかもしれない。以前から何度も議論されている、脳死判定による臓器移植の是非についても、多くの人が、脳さえ死ねば肉体が生きていてもそれは死であり、その段階で自分の肉体を切り刻むのは構わない、と考えているのではないかと感じている。それは、自分の体を誰かのために役立てたいという奉仕の精神というよりは、ただ単に、自分の肉体の死について無関心なだけの人も多いのではないだろうか。仮にそういう立場に立った場合、まどかや杏子のように顔をひきつらせて怒ったり放心したりする感覚は、ひょっとしたら理解されにくいかもしれない。なぜなら、彼女たちがソウルジェムに関する冷酷な事実を聞いたときに感じたのは、紛れもなく、理屈や倫理観を云々する段階ではなく、「気持ち悪い」という、シンプルだが非常に強烈な感覚であったろうからだ。


しかし、仮に自分の体が、何も知らされないままに得体のしれない人形に交換されていたら、そのおぞましさは尋常ではないだろう。このあたりの感覚については、漫画版『風の谷のナウシカ』でたびたび描かれてあったテーマであったが、肉体の創造という神だか大自然だかの人智を越えたチカラの発動によって為される奇跡を、科学や魔術のチカラでもって人為的に改変してしまうという行為によって、逆に自分の肉体が自分の所有権を離れてしまうという不安感や違和感に、集約される問題では無かろうかと思う。我々は普段、たった一度きりしかないこの生命に、偶然と奇跡の生み出した特異な現象として認識している。だからこそ死ぬのは怖いのだし、それ自体何か楽しいわけでもない生命活動をずっと維持して行こうと考えるわけである。その偶然と奇跡の産物である肉体を、たとえ自分自身の手によってであろうと人為的に介入することは、生命活動の実態だけでなく、死さえもヒトのコントロール下に置いてしまえるということであり、それはとても怖いことだと思う。




また、人は本来、自分の意志で死ぬことはできない。自分で自分の首を絞めても死に至らないのは、頭では死にたいと考えても、本能がそれを拒むからだ。だから人間は自分で死のうと思ったら、文明の利器を活用して、ヒトという生き物が本来想定していた以上のダメージを与えなければならず、しかもそれはある種の勢いにまかせた行為でなければならないのである。


魔法によって生命の本体を小さな結晶体の中に閉じ込め、肉体をただの人形にしてしまうということは、普通なら偶然性によって支配される見えない運命の手に委ねていた自分の生と死を、目に見えるカタチで自分の手で管理していかなければならないということで、自分でコントロールし、大切に保管し、ときどきは手入れをしてやらなければならなくなる。ソウルジェムを失くしたり壊したりすれば、それは偶然ではなく自分の過失によってもたらされる死として、降りかかるのだ。自分の生と死の責任をすべて自分で負わなければならないという使命、そしてそれを今の今まで知らされていなかったという事実は、杏子やさやかにとって、あまりにも大きすぎる恐怖であるはずだ。



倫理以前の問題としての感覚的な気色悪さやおぞましさ、そして自分の生死にほぼ全面的な責任を負わなければならないという恐怖。魔法少女たちに告げられた真実の残酷さは、あまりにも衝撃的に、少女達の胸中を襲い、嵐のように吹き荒れたことだろう。




・大人になるということ


まどかやさやか達とキュゥべえの対比が、しばしば子供(青年)と大人の構図で描かれていることは、すでに何度も繰り返し書いてきたことではあるが、今回はいっそうその対比が鮮明に打ち出されたのは、大きな注目点だ。


大人である鹿目詢子(まどかの母)は、大人になるということは、自分で正しさを放棄しながら、正義よりも大切な何かのために生きて行けることだと説いた。そしてそれは感覚的には決して気持ちの良いものではなく、むしろ辛く苦しい選択である場合がほとんどで、でもそうした辛さを抱えているからこそ面白いのが大人の世界だと語って見せた。


けれど、そんなアドバイスの結果はどうだったろうか。大人である母からの、大人になるための頼もしい道しるべ。その言葉を受けてまどかが選択した行為は、彼女の思っても見ない最悪の結果をもたらした。しかもそれは、恐らく後から振り返っても、選んで良かった選択肢では断じてない。事前に何の説明も為されていなかったのだから、責任はまどかにはない、けれども、だからと言って結果の悲惨さに何の違いがあろう。


知らなかったとはいえ、さやかの命を奪ってしまいかねなかった自分の行為。これを、知らなかったから自分の責任ではないと言い繕って見て見ぬふりをするのが、大人の選択だろう。なぜなら無駄に過去に縛られ続けることは、自分の人生にとってあまりにも非効率的な上に、苦痛であるのだから。そしてキュゥべえは、もうずっと以前から、結果はどうあれ自分が責任を負って苦しむ羽目には絶対にならないように、周到に逃げ道や言い訳を張り巡らせながらまどか達と接してきたわけだ。こんなキュゥべえの卑劣なやり口が、大人だっていいものだよ、と言ってくれた詢子のアドバイスのすぐ直後に描かれると言うのが、これ以上ないくらいに作為的だ。


現時点では間違いなく、子供が大人を見た時の、ぬぐい難い嫌悪感というものが、物語の主軸を形成している。してみれば今作はもしかしたら、魔法”少女”の成長を描く物語ではなく、少女が大人と対決する姿として現出するのかもしれない。無垢な子供が汚い大人へと変わって行くのは、避けようの無い現象であるという一面も確かにある。だが、大人の世界に足を踏み入れかけた青年が、その足で大人のやり方を踏みつけ、青少年らしい真っすぐな正義感を高らかと宣言するのは、じつにお伽話的であるし、魔法”少女”の物語としての価値を生み出すことができるかもしれない。


大人の支配するこの世界は、残酷で、巧妙で、悪意に満ちており、汚らわしくおぞましい。そしてそれを嫌悪し唾棄することができるのは、大人の世界を垣間見るくらいには物事を知っており、むやみに正義を振りかざすくらいには幼稚な、中学生高校生と言った年代の若者達の特権である。大人の決めたルールの中にはめ込まれてしまった魔法少女たちが、この世界の仕組みにどう立ち向かい、どう乗り越えたり破れたりしていくことになるのか。そのあたりに注目しながら、まずはキュゥべえに対する不信感を募らせているであろう杏子やさやか達の取るべき行動を、見守っていきたい。




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それでは、今回は以上です。


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この記事へのコメント

ひふみー
2011年02月14日 02:18
>現代の人々は劇中のまどかや杏子ほどのショックは
>受けないかもしれない。

さらに一歩進んでショックどころか、より積極的に進んで
そのような行為に励む人々とその世界・・・というモノを
描いたジャンルがあります。

80年代に一世を風靡した「サイバーパンク」というSFジャンルがそれで
「現代の人々」から一歩進んだ時間軸の「近未来」の世界を舞台に
「生命と機械」「精神と肉体」「魂の在り処」といったテーマが
SFらしい縦横無尽な自由さで旧来の常識を切り崩していきました。
今回のキュウべぃの淡々とした語りには、そんな「サイバーパンク」精神を
垣間見たような気分になりましたね。

そういえば脚本・構成の虚淵氏は、そういったSF方面の造詣も
結構深いようで、その辺の“特殊な”感覚を「等身大の少女キャラクター」達の
日常的な目線にまで無理やり引き摺り下ろすことで、異様な衝撃度を生み出す事に
成功しているように思います。
おパゲーヌス
2011年02月14日 21:38
>ひふみーさん
なるほど、サイバーパンクですか。自分はその方面はほとんど無知ですね。でも興味が湧いてきました。

虚淵氏の仕事をまともに見るのも実は初めてなので、彼の手腕がどのように発揮されているのかは分かりません。今のところは、魔法少女というよりは少年漫画等で培われてきた異能バトルもののテンプレートを巧みに流用して視聴者をミスリードしつつ、徐々に規制概念の破壊を盛り込んできている印象があります。それがサイバーパンクの姿勢に通じている、ということでしたら、なかなか興味深いですね。
まぎか最高!
2011年02月19日 01:04
想像以上に面白くなってきてびっくりしている今日この頃です。キュウベーの卑劣さがやばいですねw
良くも悪くも状況に流されつつ成長していくキャラクター達の今後に期待したいです。
おパゲーヌス
2011年02月19日 10:34
>まぎか最高!さん
第1話あたりがかなりテンプレな話だったので、うまくミスリードしながら盛り上げてくれてたんだなぁと、いたく感心しています。QBはもうアニメ史上最強のセールスマンとしての地位を確立していますねw

キャラクターの成長は本当に楽しみです。その、「良くも悪くも」というのがきっとポイントで、今作の場合は成長=良いこと、という構図では必ずしも描かれないような気がするので、作り手がどんな展開を用意してくれているのか、楽しみで仕方ないですね。

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