輪るピングドラム 第6話「Mでつながる私とあなた」

外道上等! これぞ生存戦略の掟!?




2週間ぶりとなる『ピングドラム』。先週はコミケで全国的に大わらわだっただろうから、この放送休止は本当にありがたかった。BD発売告知のCMによれば3話×8巻で全24話らしいから、今回の第6話はちょうど1/4に差し掛かったタイミングということになるが、荻野目苹果と運命日記をめぐる物語はこれからが佳境という印象。『タクト』がやったように、8話ひと区切りでドラマを転がしていくのだろうか。それにしては毎週のように新たな展開や謎かけが行われていて、相変わらずすごい密度だw


さて今回は、苹果の日記の正体についてようやく劇中で言及が行われ、またそれに伴ってペンギン帽子の女王陛下からより具体的な指令が昌馬に下されることになった。運命日記のストーリーはどうやらこのまま昌馬×苹果のペアで収束させていく印象がある一方、冠葉は独自に情報収集に走り、別勢力の手先と思しき夏芽真砂子と接近する。


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まず昌馬と苹果が担当する日記についての話。あの日記が何なのか、いろいろと憶測を呼んでいたけれど、今回劇中で語られたことがすべてかどうかは分からないものの、いちおうは苹果の亡くなった姉が書いた由緒正しい(?)妄想日記だったということだ。荻野目ももかが命を落としたのはまだ子どもの時分(少なくとも高校生になるよりかなり前、漢字の使い方を見るに小学校高学年くらい?)だったようで、多蕗と恋人同士になるにはまだ幼すぎ、しかし彼と恋をして結婚をして一生を共に過ごしたいと強く願うくらいには”女の子”だった。


この年齢を、苹果や多蕗と比べてみると、劇中でのカッパとラッコの会話が恐ろしいほど運命じみたものに聞こえてくる。現在の多蕗の年齢は分からないが、四年制の大学を出た彼が教員として採用されクラス担任を受け持っているとすれば、数年以上の教職経験を積み、年齢も20代後半にはなっているはずだ。仮に27歳くらいだとして、そうすると現在高校生の苹果とは10歳~12歳ほどの開きがある。多蕗と ももか が同年齢なので、ももかと苹果も当然10歳~12歳ほど離れていることになる。ももかが亡くなったのがまさに10歳~12歳くらいだと思われるから、劇中で繰り返し強調されていた「ももかの命日は苹果の誕生日」という話は、ただ日付が一緒だっただけではなく、ずばりダイレクトに、苹果が生まれたその日にももかが亡くなったと考えるのが妥当だろう。


とすれば、カレーは大切な人と一緒に食べるものだ、という苹果の信念は、その両親にとってはあんまりにも皮肉な話になってしまう。この夫婦は不慮の死を遂げたももかをことの他大切に想っているが、この世で一番、一緒にカレーを食べたかった相手が、もうこの世には存在していないという不幸が、毎年のようにこの夫妻の心を締め付けていたことになる。いやあるいは、劇中の会話からすれば、ももかの命日にカレーを食べることをこだわっていたのは母親で、そうなればカレーに縛られていたのはむしろ苹果のほうであったと言える。世間ではもっと豪勢な食事で誕生日を祝うであろうのに、苹果はその一番大事な日にずっとカレーばかり食べさせられていたわけだ。だが、その事実を寂しがっていたのは苹果ではなく父親で、彼は苹果にもっと世間並みの楽しい誕生日を提供したかったのだが、頑なにそれを拒み、むしろ悲しい思い出をいつまでも引きづり続ける妻に、辟易させられていたらしい。ほんのささいな運命の歯車のいたずらによって、この一家は毎年、いや毎日のように、カレーごときのために心をすり減らしていたわけだ。


だが、回想の中で夫婦喧嘩をする両親の姿はもはや遠い過去のものである。この二人の喧嘩は、一見子どもを愛するが故の喧嘩に見えはするが、実際にはいま目の前にいる我が子の気持ちを汲み取ろうともせず、ただ自分自身のエゴを貫き通そうとするだけのぶつかり合いにすぎなかった。苹果は誕生日に大切な家族とカレーを食べたかったかもしれないのに、彼女の気持ちを考えようとか、話を聞こうとか、そんな行動に出ることはなかった。結果は目に見えている。夫妻は別居し、仕事や、別の”大切な人”のために、苹果のことを気にかけなくなった。苹果は苹果で、家族だの愛だのといった概念に極度に執着するようになり、常人にはよく分からない理屈で運命の実現を夢見たり、姉になろうなどと言ってストーカー行為に走るようになった。いやそもそもの最初から、自分が望まれない子・いらない子だと認識し始めた苹果には、荻野目苹果としていっぱしの幸福を享受するという選択肢が存在しなかった。これが彼女の最大の不幸であっただろう。時に強固な意志の下に、また時に嬉々としてミッションの遂行にあたる苹果の姿には、しかしやはり常に病的なまでの強迫観念が付きまとい、幸せへの跳躍というよりは不幸や破滅からの逃避という側面が強すぎる。ささいな幸せを望んでいるだけなのに、その選択を次々と誤り、もはや取り返しのつかないところまで彷徨いこんでしまっているようだ。


もし、ももかが死んでさえいなければ。あるいはももかの死が数年、いやせめて数日でも、苹果の生まれた日とずれていれば。そうしたら、こんなふうに家族がばらばらになることもなく、苹果ももっと真っ当に幸せを噛み締めていられたかもしれない。ただ本当に偶然に、嘘みたいな数字の符合が起こってしまっただけで、ひとつの家族が犠牲になろうとしている。そんな運命のきまぐれを押しとどめる手段は、人間(われわれ)にはない。


運命に抗うべく、日記のチカラを借りて、あるいはピングドラムを手に入れて、奇跡を起こす。現時点では苹果も冠葉・昌馬もそれを目的に動いているのだが、果たしてこれに用意されている結末はどんなものなのか。運命と戦うための奇跡のチカラというと、最近では『まどマギ』あたりを思い起こすところではあるが、幾原監督なりの、そして『ピングドラム』なりの結論を楽しみに待ちたい。


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冠葉の直面している事件のほうは、いままでは苹果と日記の物語がメインで進行している脇でひっそりと進行している感があったが、今回などはぐっと前面に押し出されてきた。こちらはまだまだ謎だらけだが、夏芽や彼女の抱える黒いペンギンがどのようにピングドラムを巡る物語に関係しているのか。


かつて冠葉の恋人(?)で、いまはアンチ冠葉同盟を組んでいる女子三人組が、相次いで夏芽の放つパチンコ玉に頭を撃たれてしまった。久宝阿佐美の様子は、ただ冠葉の存在を忘れてしまっただけのように見えたが、その後の二人(唯と千鶴)に起こった事態を見るに、あのパチンコ玉は記憶を消すというよりは、どちらかというと使用者の思惑通りに書き換えるといったほうが近いのかもしれない。玉を頭に打ち込まれた際の、攻撃的な本音を口にして、奇声と共に液体を吹き出し、冠葉のことを忘れただけでなく性格まで変わってしまったような様子は、かなりのほほんとした情景に終始してきた今作においては相当にショッキングな光景であった。


同じようにショッキングな光景として、今回はもちろん、苹果の回想シーンが挙げられる。「かえる公園」というあの舞台も示唆的なネーミングだし、かわいそうなシュレディンガーの猫を象ったものであろうか、2匹の黒猫(生と死の確率が分岐した、もとは一匹の猫?)が、影絵や背中のみの絵で妙に印象的に描かれていた。不吉な、というより奇妙なイメージで語られる、運命の意図についての考察。あるいはそれは、幼馴染の代わりに自分が死ぬべきであったと責める、多蕗桂樹の感傷だったのだろうか。




それにしても。両親が喧嘩しているシーンといい、あるいは初夜を迎えようとするシーンといい、苹果が見ている世界のカオスっぷりは本当に笑えてくる。どこまでも滑稽で、浮世離れしていて、しかも虚構的な映像と音楽。全力で馬鹿馬鹿しい絵になっていてこれはもう腹を抱えて笑うしかないのだけれど、しかし笑えば笑うほど、同時に苹果というキャラの哀しさを痛感させられて泣けてくる。きっと彼女は、あまりにつらい現実を飲み込むためには、ああやって世界を喜劇化するしかなかったのだろう。どんなに悲しい物語でも、それをフィクション化し、楽しげな演舞や音楽に変えてしまえば、いくらでも運命を受け入れることができる。そうやって世界を改変していったことで、彼女はとっくに、ホンモノの世界からはとうてい受け入れられない異物になってしまった。そのことに気づかないのか、あるいは気づいているけれど見て見ぬふりをしているのか、それともそうした自分のおかしさすら喜劇化して飲み込んでしまっているのか。


しかしそんな少女の狂乱など、運命は一切関知しない。運命によって歯車が狂わされた苹果の人生の責任を取ってくれる存在は、どこにもいないのだ。それなのに、いまだにそんな運命にしがみつき、運命が身勝手に定めた”幸せな人生像”を追い求めている限り、苹果に勝利は訪れないのではないかと思う。ペンギン帽の女王が言っていたように、本当に生き残りたいと思うのならば、外道、すなわち道を外れる覚悟が必要なのだ。鳥は神に向かって飛ぶ。しかしてその神は、啓典の指し示した道の先には断じていない。誰の作った道にも拠らず、ただ自身の羽根で羽ばたき道を切り拓いた者だけが、生存戦略を完成し得るのではないだろうか。




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それでは、今回は以上です。


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