氷菓 第21話「手作りチョコレート事件」

摩耶花はいっつも報われてないなぁ。いったいどこでこんなに薄幸ポイントを稼いでくるんだろうか。



今回はバレンタインのエピソード。最近なんだかいい感じの奉太郎と千反田にとっては一大イベントとなりそうな予感があったけれど、実際には里志と摩耶花の物語となった。


とりあえず千反田に関しては、ごく近しい人には贈り物をしないという慣習に従って何も用意しない、という行為をもって奉太郎に好意を向けていたようだが、これは何がやりたかったのかよく分からない。千反田一族における「親しさ」の観念を奉太郎がさっぱり理解できていない以上、何にもならないだろう。といっても、でははっきりとハートマークにくり抜いたお手製チョコをあげるべきかといえば、まだそんなフラグは立ってない。やはりここは、「本来であれば友チョコと称して贈り物をするべきところなんだけれど、友人づきあいのやり方に関しては世間の流行よりも家の慣習に則って対応させていただきました」といった程度のことを言いたかったのだろう。そしてこんなことを言う以上は、奉太郎が千反田からの義理チョコないし友チョコ、ひょっとしたら本命チョコまでも期待していたのではないか、という読みがあったはずで、しかしその読みに確固たる自信が持てなかったから、なんとも曖昧で意味の通じにくい態度になってしまった。


もしかしたら奉太郎のほうは、千反田が自分を家族に匹敵するくらい近しい存在なのだと言っている可能性を考えてみたかもしれないが、こんなあやふやな判断材料で結論を導き出すほど、奉太郎は能天気ではない。ここで変に気を利かせて、千反田の発言を肯定的に受け取ってしまったら、男子としては赤っ恥を晒しかねない事態になっていたところだが、バラ色人生からわざと遠ざかってきた彼の信念が、この手のイベントに対しては期待よりも疑念や諦めをもってあたるべきことをちゃんと教えてくれたのだろう。結局二人の仲はさほど進展を見せず、残念ながら今年のバレンタインは終了。彼らがもっと恋愛要素の濃いバレンタインデーを迎えるのは、来年以降の話になりそうだ。


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今回のドラマの本筋は、里志と摩耶花の恋愛事情。とくに里志の「犯罪」を通じて、いままであまり語られることのなかった彼の人生観を掘り下げていく。


中学3年生の頃の回想シーンで、里志がとんでもない言いがかりをつけて摩耶花のチョコを断っていたが、憤慨する摩耶花の可愛さ以上に里志のおかしな言い分が印象に残ったこの場面を見せられれば、摩耶花のチョコレートが盗まれたと聞いた瞬間、すぐにピンときた視聴者が多かったのではないだろうか。一見すると里志も千反田と同じくらいショックを受けた顔をしていたが、いつもだったら顔を輝かせてもいいくらいの彼が神妙な顔つきになっているあたり、ある意味バレバレな態度ではあった。奉太郎は、犯人を里志に絞り込んだのは工作部員との会話がきっかけだったと言っていたが、それは直接的な推理のとっかかりを指しているに過ぎず、印象もしくは予感のうちでは、はじめから里志の犯行だと気付いていたはずだ。


問題は、里志がいつどうやって、どこにチョコを隠したのか。しかしこれは、千反田が暴走して片っ端から可能性をつぶしていってくれたおかげで、難なくたどり着くことができる。里志がチョコを隠し得る場所のなかで、千反田が絶対に探してないトコロなんて、里志の持ち物以外にはありえない。だが奉太郎の悩みどころはそこからで、犯行の手口(チョコを砕いて手提げ袋の中に入れる)は分かるけれども、友人の全力の想いが込められた大切な贈り物にそのような仕打ちをしでかして平気でいられる、里志の心が分からなかった。奉太郎のイライラが高まってくるのはこのあたりからである。


千反田を追い出すためにどこぞの女生徒を犯人にでっち上げたのは、無二の親友である里志を守ろうとしたからなのか、それとも古典部の暖かい関係性を壊してしまうのを恐れたからなのか。この場面から感じるのは、最近の奉太郎は(かつてのように)千反田を満足させるために彼女の意に沿う答えを提示するのではなく、心優しい千反田えるを傷つけたくないがために、人の心に善意を見出す余地を探っているらしいことだ。里志の所業は非難されるべきものだが、そこにはやむに已まれぬ理由があるハズだと、ギリギリのところで里志を信用した。このように、非道とも言える悪事を働いた人間の心の中にできれば善意の欠片を見出し、あるいはそこに追い込まれた事情を探ってやり、情状を酌量できるだけの根拠を作り出そうとして、より広く深い視野を持って推理を行おうとしているのが、最近の奉太郎の姿だ。第7話の温泉旅行のエピソードで、「兄弟なんてそんなもの」と冷酷に突き放して千反田の顔を曇らせていたころとは、推理に取り組む姿勢が大きく異なっていることに気付かされる。


そして結論から言えば、奉太郎の信用に、里志はある程度までは応えてくれたと言っていい、と自分は思う。この「事件」はもともと、里志に課せられていた宿題を1年越しに提出することが求められていたイベントであり、里志と摩耶花がともに了解している一つのルールにのっとって行った駆け引き・勝負であった。結局里志はその宿題をいまだ保留とし、「また」回答を引き延ばしにされたというショック(もちろんそれは失恋に似た痛みを伴っていることだろう)を摩耶花に与えてしまった点は心苦しくはあるものの、里志が真剣に自分のあり方について悩み、自分では自己中だと卑下していたけれどそれでも摩耶花のことを心から大切に想ったうえで、現時点でできる精一杯の回答を提示した結果が、チョコレート盗難事件だった。この苦心の成果は、罪一等を減じて軽いゲンコツひとつの罰で済ませるだけの評価を、奉太郎から得ることができた。


今回一番の厄介ごとは、まぎれもなく千反田えるだったわけだ。彼女が摩耶花のまっすぐな恋心に入れ込み、そのために冷静さを失って騒ぎ立ててしまったことが、事件の悲劇性を際立たせてしまった。もちろん彼女は、中学時代からの親友である奉太郎とは違って、里志と摩耶花に特有の微妙な恋の駆け引きがあるらしいことを知らなかったのだから、仕方がないことではある。ただそれに加えて、この手の問題にはいきなり正答を導き出すよりも、遠回りに軟着陸させたほうが良い場合があることを、千反田はあまり考慮しない。このあたりの千反田の欠点は、文化祭での交渉ぶりを見せられたあたりから目についてきた印象があるが、思い返してみれば、奉太郎はしばしば、政治的判断を要求される場面で、はっきりと千反田をのけ者にしてきた。奉太郎の思い描く円満解決の姿を、ありのままに見る機会に恵まれなかったことは、今後のヒロインの姿に何かしら影響があるだろうか。




今作ももう終盤に差し掛かりつつあるはずだが、いまだに、話数を重ねるごとにキャラクターの内面が深く深く掘り下げられている。そしてその中で、序盤の頃とは大きく変化しつつあるキャラクター像がクローズアップされているのが、ここ数話分における展開だ。彼らの変化が、最終的にどのようなカタチに結実することになるのか、注目しておきたい。




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それでは、今回は以上です。


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